狂愛メランコリー
第三章 灰色の記憶
第7話
絶叫とも言える悲鳴が響き渡った。
数秒後にそれが、自分から発せられたものだと気が付く。
喉がからからに渇き切っていた。
心臓が早鐘を打つ。冷や汗が滲み、寒気がする。
(私……)
小刻みに震える両手を見下ろす。
「生きてる……?」
昨日、確かに理人に殺されたはず────。
帰り道、突然豹変した彼に首を絞められた。
何とか抵抗したものの、最終的には何か重いもので殴打されたのだ。
それから、どうなって今、自分のベッドの上で目を覚ますことになったのだろう。
殴られたはずの頭も、締め上げられていた首も腕も、まったく痛くない。
そのとき、階下から声が聞こえてきた。
「菜乃、どうかしたの!?」
焦ったようなお母さんの声だ。
私の悲鳴を聞きつけ、心配してくれたのだろう。
「な、何でもない! 大丈夫……!」
咄嗟にそう答える。
私はどうやら、死んではいないみたいだ。
スマホのロック画面を確認すると、まだアラームまで1時間近くある。
理人に殺されたのは、夢だったのかな……?
そうは思えないほど生々しくリアルだったけれど、実際、今生きているんだし。
しかし、今日は何だか理人に会いたくない。
私は急いで支度を済ませ、彼が来る前に一人で家を出た。
(……夢だったんだよね?)
何度も何度も繰り返し自問自答した。
そんなの当たり前のはずなのに、どこか解せない思いが拭えない。
そのうち、私が殺された場所へ差し掛かった。
当然ながら何の痕跡もないのだが、地面に落ちている大きな石が目に入る。
石というか、割れたブロック塀の破片というか、いずれにしてもあれで殴られたのだと考えて相違ない代物だ。
「…………」
ぎゅ、と鞄の持ち手を強く握り締め、私は再び歩を進める。
不意にスマホが震え、思わずびくりと肩を揺らした。
取り出して見ると、理人からのメッセージが来ていた。
【おはよう、いつも通り迎えに行くね】
通知センターに表示されたそれを目にすると、なぜか心臓が冷たい拍動をする。
彼に対して身体が勝手に拒絶反応を示していた。
「……え?」
ふと、ロック画面の日付が目に入る。
────4月28日?