狂愛メランコリー
流されるような形で連れていかれた先は、やはりあの階段だった。
(……ほら、知ってた)
わたしは確かにここで彼と出会ったはずなのだ。
「で、何か話でもあんの?」
話したいことはたくさんある、と思っていたのに、何から伝えればいいのか分からない。
知っているはずなのに知らない人みたいないまの向坂くんは、どのくらい真剣に向き合ってくれるんだろう。
「……わたし、夢を見てたの」
そう切り出すと、彼は「夢?」と繰り返した。
「その中では、わたしと向坂くんは友だちなの。わたし、理人に甘えてだめだめだったけど、向坂くんのお陰で“変わりたい”って思えた。頑張ってた。それで────」
勇気と自信と優しさをくれる彼のことを、好きになった。
このことは、さすがに言えないけれど。
「それで?」
「……理人に打ち明けたの、ぜんぶ。自分の気持ちとか覚悟とか。そしたら、わたし……彼に殺された」
はっきりと覚えている。
狂気じみた理人の微笑みと言葉。
『また、すぐに会えるから』
はっきりと残っている。
締め上げられた首や腕の痛みと息苦しさ。
「予知夢、なのかな……?」
わたしが彼に殺される結末を避けるために、神さまが見せてくれた“未来”なのかもしれない。
「…………」
しばらく沈黙が続いた。
いきなり見ず知らずの人にこんな突拍子もない話をされたら、当然困惑するだろう。
変な奴だと思われたかもしれない。
聞かれたからって、どうして正直に話しちゃったんだろう。
だんだんと後悔の感情がせめぎ合い始めると、長い長い静寂を彼は破った。
「────夢じゃねぇかも」
静かに言われた言葉を受け止めながらも、内心惑ってしまう。
「え……」
「何かあんじゃん、そういうの。死んだら時間が巻き戻る、みたいな。何つったっけ? “死に戻り”?」
その真剣さを測るように、わたしは彼の目を見た。
いずれにしてもそれは、わたしにはない発想だった。