狂愛メランコリー
まだ、夢の中にいるの?
信じられない気持ちで何度も確かめたけれど、日付はやはり4月28日。
おかしい。
“昨日”は4月30日だったはずなのに。
「どういうこと……?」
小さく呟いた声は不安気に揺らいだ。
何か、とんでもないことに巻き込まれてしまったかのような予感に粟立つ。
(向坂くん────)
その名が頭に浮かんだ途端、気付けば地面を蹴って駆け出していた。
彼に会いたい。
向坂くんに会えば、夢と現実の境界線が分かるかもしれない。
屋上へと続く階段を上ったが、いつもの場所に向坂くんの姿はなかった。
時間を見ると、本鈴まであと30分もある。
さすがにまだ来ていないかもしれない。
3階へ下り、B組の教室を覗いたが、やはり彼の姿はなかった。
得体の知れない焦燥と不安感に飲み込まれる。
何かに怯え、何かに焦っている。
……何に?
あのリアルな夢に? 理人に会うことに?
「見て、珍しく一人だよ」
「とうとう王子に捨てられたのかな? “灰かぶり姫”は」
B組の教室内にいた女子数人が私を見て囁き合った。
口元に浮かぶ意地悪な笑みと、嫌味にあふれたその声色から、あえて聞こえるように言っているのだと分かる。
「…………」
思わず一歩、後ずさった。
言い返すことはおろか、目を合わせることも出来ない。
何も悪いことなんてしていないのに、込み上げてきた後ろめたさが私の気を挫く。
逃げるようにもう一歩後ずさると、とん、と誰かに優しく肩を掴まれた。
振り向いて見上げれば、そこにいたのは理人だった。
「理人……」
「おはよう。今日はどうしたの?」
少し戸惑いを滲ませながらも、いつもの柔和な微笑みを湛えている。
「メッセージも未読だし、家に行ったら“もう出た”って言われて」
そういえば、そうだった。
通知で見ただけで、開くのも返信するのもすっかり忘れていた。
それどころじゃなかった。
漠然と存在を増していく違和感の全貌が掴めず、ただただ何かを恐れていて。
「…………」
声が出なかった。
心臓がばくばくと高鳴っている。冷えた指の先から全身が震える。
「……菜乃?」
血の気が引いていくのが分かる。
目の前にいる優しい理人が、夢の中の恐ろしい彼と重なって────。
「……っ」