狂愛メランコリー
当たり障りのない会話をしながら弁当を食べたが、まるで味がしなかった。
緊張のせいか、ほとんど喉を通らない。
「あ、いたいた。三澄くん」
そのとき、教室の戸枠のところからそんな声がした。
一人の女子生徒が立っている。
「今日はクラス委員の集まりがあるって聞いてなかった?」
「ああ、忘れてた。今行くよ、ごめんね」
理人は申し訳なさそうに苦笑しながら席を立った。
やはり、集まり自体は今日あったのだ。
「菜乃、ごめん。すぐ戻るからここで待ってて。どこにも行かないでね」
「う、うん……」
念押しするような理人に手を振り返し、姿が見えなくなるまで目で追った。
一人になると、深々と息をつく。
何だか、もの凄く疲れた。神経が摩耗する。
「…………」
“忘れてた”なんて、そんなわけがない。
完璧な理人に限ってありえない。
蔓延る違和感が膨らみ、心臓を圧迫していく。どくんどくん、と重く脈打つ。
(わざと……?)
集まりを忘れた振りをして、あえて私と一緒にいようとしたの?
“前回”はそんなことしなかったのに、何でなんだろう。
思い返してみる。
前の4月28日にあった出来事────。
理人は私とのお昼を断って集まりに赴いた。私には中庭で食べることを勧めて。
結果的にそれを無視した私は偶然、向坂くんに出会った。
(……そういう、こと?)
私を、向坂くんと出会わせたくなかった?
「…………」
だけど、それなら────。
膨張していた違和感が、ぱちん、と泡沫のように弾ける。
周囲の人や出来事すべてが夢と、いや、私の“前回”の記憶と同じように回っていく中で、違うことをする人がいた。
一人は私。それは、戸惑いと混乱に振り回されてのことだった。
その延長で、結果的に向坂くんとの出会いや彼の行動も変わった。
もう一人は理人だ。
彼だけは私に関係なく、自分の意志で“前回”と違う行動をあえて取っている。
(覚えてるんだ)
私を殺したこと。それに至るまでの経緯。
だからか、同じ結末を避けるように、違うことをしているのだ。
彼が避けたいのは、私を殺す未来だろうか。
あるいは別のところに理由があるのだろうか。
理人の目的は、いったい何なのだろう。