狂愛メランコリー
考え始めたら底なし沼に沈んでいくような気がした。
何一つとして答えが見つからないのだ。憶測でしかない。
私は箸と弁当箱を起き、立ち上がった。
(どこにも行くな、って言われたけど……)
……理人が戻ってくる前に、向坂くんに会いに行かなきゃ。
「花宮」
屋上へと続く最後の踊り場へ踏み込んだ瞬間、上から向坂くんの声が降ってきた。
傍らには空になったパンの袋がある。
「ごめん、遅くなっちゃった」
「別にいいって」
ぶっきらぼうに言う向坂くんに促され、私も段差に腰を下ろした。
「で、どう? 何か分かったか?」
「えっと……。たぶん、っていうか絶対、理人は知ってる。私が死んだら時間が戻ること」
殺される間際の彼の台詞からしても、その点は間違いないだろう。
「なるほどな。お前みたいに記憶もあんの?」
「分かんない。でも、少なくとも“前回”のことは覚えてると思う。理人だけが違うことをするの」
まるで、同じ結末になることを避けるように。
「少なくとも、って……。これが初めてじゃねぇってことか?」
「え」
「三澄に殺されたこと」
そんな言い方をしたのは、完全に無意識だった。
でも、言われてみればありえないことでもないだろう。
「そうかも……」
私は“前回”以前にも、理人に殺されたことがあるのかもしれない。
今回の向坂くんみたいに、記憶を失っただけで。
「何が違うんだろう? 何で私や理人は覚えてて、向坂くんは覚えてないんだろう」
「さぁな。ま、でも三澄が覚えてんのは当然じゃねぇか? あいつが作り出した“ループ”なんだろ」
ふと、彼が前傾姿勢になる。
「あいつはサイコ野郎で、お前を何度も殺すために3日間を繰り返してんだよ」
「うーん……」
それは、あくまで向坂くんの立てた仮説なのだろう。
私にはいまいちしっくり来なかった。
「理人が私を殺すのに、理由なんてないってこと?」
「いや、あるにはあるだろ。血が好きだとか殺しが好きだとか、サイコなりのイカれた理由が」
だが、もしそうだとしたら、別に殺す相手が私でなくともいいはずだ。
可能性の一つとしてはありうるかもしれないが、それですべてを説明出来るほどの説得力はない。
他に理由があるのだと思う。
今は分からないけれど。
「……何にしても、私が死んだら巻き戻るんだね」
死んでも、死なない。
それは逆に言えば、何度苦痛を味わうことになっても、逃げ道がないということ。
死んだからと言って、すべてから解放されることはないのだ。
まさに地獄の“デスループ”だった。
「そうだな。……ループのトリガーは、お前が三澄に殺されることか、お前の死そのものか」
向坂くんの言葉に目を伏せる。
私が単に命を落とすだけでも巻き戻るのだろうか。
あるいは、理人によって殺害されることが条件なのだろうか。