狂愛メランコリー
第8話
*
【ごめん、理人!】
【今日までの課題忘れてたから先行ってるね】
そんな菜乃からのメッセージを黙って読み、僕はスマホをスリープした。
「…………」
冷めきった表情で見下ろすと、液晶に反射した。
────嫌な予感がする。
“今回”の彼女はどこか変だ。昨日といい、今日といい。
僕を見つめる眼差しに、何だか怯えているような気配があった。
“理人”と呼ぶ可愛らしい声も、どことなく緊張したように硬かった。
「もしかして……」
以前にも一度だけ、こんなことがあった。
彼女は忘れているだろうが、あからさまに僕を避け続けた3日間があった。
菜乃は、最期にこう言った。
────“もう、殺されるのは嫌”。
僕は、そっと目を閉じる。
そのときの彼女には、記憶があったのだ。
僕に殺された、という記憶が。
(まさか、今回もそうなのか?)
以前より避け方がやんわりとしているから、ほんの違和感程度しか抱かなかった。
誰かの入れ知恵だろうか。
誰か、なんて、あいつしかいないけれど。
「向坂……」
昨日、出会ってしまったのだろうか。
昼休みのあの一瞬、目を離しただけで?
二人を引き合わせないよう、限界まで菜乃を見張っていたのに。
(……違うか)
菜乃に記憶があるのなら、向坂のことを既に知っていたはずだ。
“前回”の菜乃は、彼に恋をした。
僕を頼れなくなったなら、真っ先に助けを求める相手だろう。
「ああ、また失敗か……」
ネクタイを締めながら、自嘲するように笑う。
どうして、こうも上手くいかないんだろう。
「……まぁ、いいや」
歯車が狂ったら、ぜんぶ壊してしまえばいい。
何度だってやり直せばいいんだ。
理想通りの世界で、菜乃が僕だけを見てくれるまで。
*
「……!?」
理人にメッセージを送ってから、玄関のドアを開けた私は息を呑んだ。
「おはよう」
門前に理人がいたのだ。
跳ねた心臓が嫌な音を立て、早鐘を打ち始める。
「何で……」
【ごめん、理人!】
【今日までの課題忘れてたから先行ってるね】
そんな菜乃からのメッセージを黙って読み、僕はスマホをスリープした。
「…………」
冷めきった表情で見下ろすと、液晶に反射した。
────嫌な予感がする。
“今回”の彼女はどこか変だ。昨日といい、今日といい。
僕を見つめる眼差しに、何だか怯えているような気配があった。
“理人”と呼ぶ可愛らしい声も、どことなく緊張したように硬かった。
「もしかして……」
以前にも一度だけ、こんなことがあった。
彼女は忘れているだろうが、あからさまに僕を避け続けた3日間があった。
菜乃は、最期にこう言った。
────“もう、殺されるのは嫌”。
僕は、そっと目を閉じる。
そのときの彼女には、記憶があったのだ。
僕に殺された、という記憶が。
(まさか、今回もそうなのか?)
以前より避け方がやんわりとしているから、ほんの違和感程度しか抱かなかった。
誰かの入れ知恵だろうか。
誰か、なんて、あいつしかいないけれど。
「向坂……」
昨日、出会ってしまったのだろうか。
昼休みのあの一瞬、目を離しただけで?
二人を引き合わせないよう、限界まで菜乃を見張っていたのに。
(……違うか)
菜乃に記憶があるのなら、向坂のことを既に知っていたはずだ。
“前回”の菜乃は、彼に恋をした。
僕を頼れなくなったなら、真っ先に助けを求める相手だろう。
「ああ、また失敗か……」
ネクタイを締めながら、自嘲するように笑う。
どうして、こうも上手くいかないんだろう。
「……まぁ、いいや」
歯車が狂ったら、ぜんぶ壊してしまえばいい。
何度だってやり直せばいいんだ。
理想通りの世界で、菜乃が僕だけを見てくれるまで。
*
「……!?」
理人にメッセージを送ってから、玄関のドアを開けた私は息を呑んだ。
「おはよう」
門前に理人がいたのだ。
跳ねた心臓が嫌な音を立て、早鐘を打ち始める。
「何で……」