狂愛メランコリー
(……なんて)
そんなはずないよね。
彼は別に、私に機会をくれているんじゃない。
私がどこまで知っているのか、探りたいだけ。
(……でしょ?)
私は鈍感な振りをして、首を傾げた。
「どういうこと?」
いつもの私ならそうするはずだから。
「何でもないよ。ただ、菜乃と一緒にいられて幸せだなってだけ」
「私も、理人といられて嬉しいよ」
分かっているのに、知らない振り。
お互いがそう腹の探り合いをして、核心には迫れないでいる。
そうしたら、知っているということが露呈してしまうから。
先に聞いた方が負けなのだ。
朝に言っていた通り、放課後になっても理人は私を解放しなかった。
結局、向坂くんには会えないまま学校を出ることになってしまった。
理人の狙い通りだろう。
「バスの時間調べるね」
「あ、うん。ありがとう」
もう、今さら彼との約束を断れる雰囲気でもなくなった。
一旦、受け入れて居直るしかないだろう。
今の理人は機嫌がいい。
このままいけば、明日を乗り越えられるかもしれない。
少なくとも死の危機を切り抜けるまでは、従順に大人しくしていよう。
上手くやろう。やるしかない。
(……大丈夫)
どく、どく、と緊張と恐怖で脈打つ心臓を落ち着けるように、そっと胸に手を当てる。
『諦めんなよ、花宮。抜け道は絶対ある』
私は、一人じゃない────。