狂愛メランコリー
「ああ、俺……覚えてる。おまえのことも、殺されたことも」
彼自身も戸惑いをあらわにしていた。
わたしは息をのんで目を見張る。
今回は、わたしにも向坂くんにも記憶があるようだ。
「……って、おい。何の涙だよ、また」
困惑気味に彼がうろたえた。
じわ、と滲んできたそれを指先で拭い、苦く笑う。
「ごめん。何か、ほっとして」
「……ったく。あー、くそ。頭痛ぇ……気がする」
向坂くんは険しい顔で頭を抱えた。
「あいつ、思いきり殴りやがって」
「もしかして、向坂くんも……?」
「ああ、殺された」
わたしが息絶える中、理人は彼まで手にかけていたようだ。
ループの発動には関係のない、向坂くんまで殺すなんて────。
“前回”の理人は、正気を失っていたように見えた。
結局、何が彼を豹変させたのか分からないまま、また今日に戻ってきてしまった。
「つか、殺されんのは放課後なんじゃなかったのかよ。日付は決まってても、時間は関係ねぇってことか?」
「色々、変化してるよね。記憶もそうだし」
どういう法則があるのだろう。
どうして、今回はわたしにも向坂くんにも記憶があるのだろう。
「俺も殺されたから覚えてんのか?」
「それだと……わたしの辻褄が合わない」
わたしは毎回殺されているけれど、記憶は保持しているときと失うときがある。
記憶を保っていられた“前回”と“前々回”の共通点は何だろう。
“前回”のわたしと向坂くんの共通点は何だろう。
「……おまえさ、今回どうすんの」
「え?」
「三澄と、どう接すんの?」
彼は窺うようにわたしの目を覗き込む。
「…………」
“前回”と同じなら、理人はわたしに記憶があることをまだ知らないはずだ。
同じ徹は踏まないようにしないと。
それなら、無難に従順でいた方がいいし、なるべく向坂くんとも接触しない方がいいのだろう。
けれど“前回”だって似たような心構えだった。それでも殺された。
わたしを分かりきっている理人のことは、きっと欺き通せない。
────だとしても。