狂愛メランコリー

「放課後は一緒に帰ろう」

 理人は柔らかく笑むと、そっと私の手を取った。

 今日はどうして、そんなに近いのだろう。

(余裕の表れ……?)

「……うん」

 何とか笑って見せたけれど、少しぎこちなくなったかもしれない。

 理人に対する不安もそうだが、何より輪を作っている女の子たちの視線が突き刺さった。

 ────理人なら、そのことに気付いているはずなのに。

 それが私の孤立を助長させてしまっていることにも。

「…………」

 やんわりと手を引っ込める。

 曖昧な笑顔を残し、私はB組の教室を後にした。



 特に何事もなく昼休みを迎える。

 今回の理人はどこか違っていて、休み時間にも毎度会いに来るようなことはなかった。

 それならそれで、いたずらに神経をすり減らさず済むからいいのだけれど、逆に少し気味が悪い。

 これもまた“前回”と同じ結末を避けるための行動なのだろうか。

 私は釈然としない気持ちを抱えながら階段を上っていった。

 いつものところで向坂くんが待ってくれていた。

(理人の罠じゃないよね……?)

 あまりにもスムーズで、あまりにも私にとって都合がいい。

 こんなにも簡単に向坂くんとコンタクトを取れるなんて。

「浮かない顔してんな。何かあったか?」

 私は少し間を空けて彼の隣に腰を下ろす。

「ううん、むしろ何もないっていうか」

 だからこそ、余計に不気味で胸騒ぎがする。

 弁当に伸ばした箸もあまり進まない。

「……理人、どこまで覚えてるんだろう」

 つい、そんな疑問が口をついてこぼれた。

「“前回”の記憶はあるんだろ、今回も」

「そうだよね」

 だからこそ、あえて“前回”と違う行動を取っていることは分かる。

 だけど、それなら────。

「理人にとっても“前回”の結末は不本意だった、ってこと?」

 そうでなければ、わざわざ行動を変える必要なんてない。

 理人も同じなのかもしれない。

 あの救いようのない結末を、変えたいと思っている?

「……サイコ説は薄くなったな」

 向坂くんがメロンパンをかじった。

 もとより理人は殺しそのものを楽しむサイコパスなどではなく、やはり何らかの理由を以て私を殺しているのだ。

「何のために────」

 なぜ、私は理人に殺されるのだろう。

 結局、いつもそこで行き詰まった。

 何にせよ、理人が毎回最終的に“殺す”という選択をしている以上、その動機が分からなければ永遠に同じことの繰り返しだろう。

「……なぁ、お前と三澄って何なんだ?」

「私と、理人……?」

 向坂くんに問われ、私は過去を回顧した。
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