狂愛メランコリー
でも、私は知らないうちに駄目になっていった。
理人を失うのが怖くて、理人が離れていくのが怖くて、彼に全体重をかけて寄りかかるようになったのだ。
理人がいないと、朝起きられなくなった。
理人がいないと、どこにも行けなくなった。
理人の言葉以外は、何も信じられなかった。すべてが雑音に思えた。
高校に上がっても、理人と私は世界線の異なる“王子”と“灰かぶり姫”だった。
周りからもそう見られたし、自分でもそう思っている。
幼馴染みという関係ですら、私は理人に釣り合わない。
だから、特に悪化していった。
こんなことになるまで、私は一人で起きたことも、一人で学校への道を歩いたこともなかった。
『つか、お前らどっちも異常。共依存っつーか……。三澄にマインドコントロールでもされてんじゃね?』
いつかの向坂くんが言っていたこと、今なら完全に否定し切れない。
少なくとも私は、理人に依存していたのだから。
世界中の誰もが私に背を向けても、理人だけがいてくれればよかった。
理人だけは、私を見捨てないでいてくれる。
そう、信じていた。
(今は……とてもそんなふうには思えない)
理人だけいればいい、なんて。
そんな彼に殺されるのに。
「ますます分かんねぇな。あいつがお前を殺す理由」
話を聞き終えた向坂くんが難しい顔をして呟いた。
理人にとって、本当に私が負担になっていたのかもしれない、と一度は考えた。
でも、それは違う。
“前回”の時点で悟った。
理人は理人で、私に頼られることは満更でもないと感じている。
むしろ、それを望んでいる。
(だから……“共依存”なのかな)
彼の真意が分からず、俯いてしまう。
「……三澄って、昔からあんななんだな」
向坂くんが淡々と言った。
そうだ。
あんなふうに、優しくて大人びていて紳士的で、私じゃない誰かに向ける微笑みは、壁を画するようにどこか冷たい。
────そのわけを、私は知っている。
スイートピーを眺めていたときの、あの表情の意味も。
「……実はね。僕、ひとりぼっちなんだ」
中学三年のある秋の日、帰り道で彼は唐突に言った。
「え?」
どこがなのだろう。
いつも、あんなにたくさんの人の輪の中心にいるのに。
「…………」
理人はふと視線を逸らした。
そのときの横顔が、初めて出会った日の彼と重なる。
儚げで、寂しそうで、綺麗な横顔。
ややあって、彼が言う。
「……親がいないんだ」