狂愛メランコリー
想定外の言葉に、正直に反応してしまう。
頬より先に耳が熱くなった。
……正確には“今回も”じゃない。
向坂くんを好きになった“前々回”の3日間から現在まで、記憶が途切れなかったため、私の想いも続いているわけだ。
仮に忘れたとしても、きっと同じ気持ちを抱くのだろうけれど。
頬を染める私を見やり、理人が儚げに笑った。
「────それが答えだよ」
そう言った彼が踏み込む。
咄嗟に“前々回”の記憶が蘇った。
あのときは帰り道だったけれど、こんなふうにして捕まって……。
不意に息が詰まったような錯覚を覚え、反射的に後ずさる。
「……っ」
理人の瞳が冷酷な色を滲ませる。
冷たい微笑に追い込まれていく。
「菜乃がいけないんだよ……?」
優しく責めるような声色だった。その二つの感情が両立するんだ。
私を捉えて離さない眼差しは、狂ったように熱くて冷ややかだ。
「……だって、ありえないでしょ。僕以外を好きになるなんて。そんなの、許さない」
呪文のように呟いた理人の顔が虚無に染まる。
その瞬間、皮膚が粟立った。
はっきりと感じ取った。
明確な殺意というものを。
(そんな……)
彼の言葉を咀嚼する間もない。
防衛本能が働いた。頭の中で危険信号が鳴り響く。
私は踵を返し、彼から逃れるように走り出した。
今日という日の結末は、とっくに諦めたはずだった。
実際、直前までは受け入れようと思っていたのに、つい怖気づいてしまった。
悪あがきだと分かっている。
どうせ、理人からは逃げられない。
迫り来る死へのカウントダウンは、もう始まっている。
それでも────。
「菜乃!」
背後から、平静さを欠いた理人の声がした。
そのとき初めて、けたたましい踏切の警報音が耳に届いた。
無我夢中だった。
何も見えていなかった。
「……!!」
ゴォッ、と嵐のような轟音を響かせながら、電車が滑り込んでくる。
頭が真っ白になって、身体が動かなかった。
目の前に鉄の塊が飛び込んでくる。
痛みや衝撃すら感じられないうちに、私の意識は真っ黒に染まった。