狂愛メランコリー
第14話
4月29日。
ロック画面で日付と時間を確かめる。
カーテンの向こうから聞こえてくる鳥のさえずりを耳に、アラームの設定を解除した。
余裕を持って支度を整え、朝食を済ませる。
門の前で理人を待った。
曲がり角から姿を現した彼は、既に準備を終えていた私を見るなり、一瞬表情を固くした。
「……菜乃」
記憶を有していた過去の私と重ねているに違いない。
本来の私は、一人で起きることも出来なかったのだから。
理人はいつの私を思い出しているのだろう。
「おはよう」
私は笑って見せた。
抑え込むまでもなく、恐怖心は湧いてこない。
────目を逸らさないと決めたのだ。
理人から。そして、現実から。
「……おはよう」
珍しく、彼の笑顔がぎこちない。
吹っ切れたからか、むしろ私には余裕が生まれていた。
でも、理人はもう分かっているはずだ。
今回の私にも記憶があること。
昨日、私は彼を待たず先に登校したのに、それについて何も追及されなかった。
だけど、バレているのならそれはそれで構わない。
今回は、駆け引きも腹の探り合いもする気はない。
聞かれたら正直に答えるつもりでいた。
理人が何も言わないのなら、私が明日打ち明けよう。
「今日はお昼一緒に食べられる?」
分かっているけれど、あえて問うた。
「うん、もちろん。いつも通り菜乃のとこ行くね」
理人の返答は予想通りだ。
私も笑い返して頷いた。
風が吹く。一拍、沈黙が流れる。
「菜乃は……」
ふと不安そうな声色で切り出す理人。
どうしたのだろう。
足を止め振り向けば、揺らぐ双眸に捕まる。
「僕が怖くないの?」
驚いてしまう。
今回の彼は意外なことにストレートだった。
理人のことがまったく怖くない、と言えば確かに嘘になるけれど、今はそれほどに抵抗感がないのも事実だった。
「……怖いよ、ちょっとだけね」
苦笑しつつ、正直に答える。
理人は少し驚いたように瞠目した。
“前回”のことを思えば、私の態度は予想外のものだろう。
「でも、それ以上に知りたいの。理人のこと、もっとちゃんと」
「僕のこと……?」
「うん、そう。長いこと一緒に過ごしてきたけど、まだ知らないことがいっぱいあるなぁって気付いて」