狂愛メランコリー

(とんだ死にゲーだな)

 原理なんて分からない。超常現象なのだろう。

 そんなことはどうだっていい。

 知りたいのは、このループを終わらせる方法だ。

 やはり、それが“理人に殺されないこと”、すなわち菜乃が死ぬことなく4月30日を終えることなら、自分は関わらない方がいいのかもしれない。

 関わったら、彼女が死ぬ。

 そんな悪い予感がする。

 菜乃に記憶がないのなら、理人の望みも叶うかもしれない。

 理人が満足したのなら、彼女が殺されることもない。

(……いや)

 仁はかぶりを振った。

 傷ついた菜乃の顔が頭から離れない。

(無理だろ……)

 すべてを知りながら、見て見ぬふりをして黙っていることなんて出来ない。

 万が一菜乃が理人の想いに応じることがあったとしても、この先幸せになる未来は見えない。

 何より、独占欲と支配欲の強い理人のことだ。

 自分が関わらなくても同じかもしれない。

 嫉妬以前に、菜乃に拒まれたら逆上して、それだけで殺害に踏み切るかもしれない。

 仁が関わること自体が、菜乃の死を確定させる要素になるとは思えない。

 やはり……残酷な結末も、理人の本性も、菜乃に伝えて警告しておかなければ。

 この状況で菜乃を守れる可能性があるのは、自分しかいないのだから。



*



「ごめん、菜乃。今日クラス委員の集まりがあるから、お昼先に食べてて」

 昼休み、私のもとへ来た理人は申し訳なさそうに言った。

 当たり前のように一緒に食べられると思っていたから、少しショックを受けてしまう。

「そっか……。分かった」

「待ってて、すぐ戻ってくるから」

 ふわりと微笑み、優しく頭を撫でられた。

 周囲の女の子たちの視線が刺さったけれど、気にならない。

 私には、理人さえいれば充分だから。



 彼を見送ると、机の上にランチバッグを置く。

「……っ」

 ずき、と頭が痛くなり、支えるように額を押さえる。

 頭の中に断片的な映像が流れ込んでくる。

 黒い靄がかかったみたいに不鮮明だ。

(何……?)

 赤い────。あれは血だろうか。

 疼く背中と、冷たい金属の感触。

 力が入らなくて、息が苦しくて……だんだん身体が動かなくなって。

「!」

 ……思い出した。

 これは、今朝見た夢だ。



「花宮」
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