狂愛メランコリー
────無難に理人と接して乗り切り、夜を迎えた。
私は泣きたい気持ちで自室の机に突っ伏していた。
(明日にはまた、殺される……)
今回、ここまでは完璧に立ち回れているはずだった。
けれど、きっとどこかに綻びがあって、理人には気付かれてしまっているんだ……そんな気がした。
いくら未来を知っていても、私が理人を出し抜けるわけがないし。
もし、本当に完璧だったとしても、どうせ何らかの些細な出来事で歯車が狂うんだ。
きっと、そうだ。
この世界は、私が最終的に殺されるように出来ている。
(何も出来ないまま、結局殺されるしかないんだ)
絶望的な気持ちで、ふっと目を閉じる。
深い海の底へ沈んでいくようだった。
光なんて射し込まず、ただ冷たくて暗いだけ。
希望の一つも漂っていない。
────そのとき、メッセージの通知音が鳴った。
はっと身を起こし、スマホを手に取る。
「向坂くん……」
水面が眩しくなる。泡沫が揺れる。
やっと、息が出来た。
【平気か?】
……全然、平気じゃない。
けれど、向坂くんの存在を実感出来ただけで、不思議と苦しさが紛れた。
私は「大丈夫」と返しておく。
【明日だな】
何が、なんて聞かなくても分かる。
【うん…】
【心配すんな。明日は俺が見張っとく】
はっと息を呑んだ。
向坂くんは、諦めていなかった。
私が殺されないで済む結末を。
「……っ」
じわ、と目の前が滲んでぼやけた。
私はすっかり弱気になって望みを捨てていた。
どうせ未来なんて変わらない、って投げ出していた。
(そうだ、私……)
私は一人じゃなかった。
一緒に、救いようのないこの現実と向き合い、戦ってくれている人がいる。
それなのに、勝手に諦めるとはなんて無責任なのだろう。
【ありがとう】
心の中で噛み締めるように唱えながら、指先で言を紡いだ。
やっぱり向坂くんは、私に勇気をくれる。
簡単に諦めちゃ駄目だ。
“前回”の最期にも誓ったではないか。
「大丈夫……」
自分に言い聞かせるように呟く。
絶対、明日を乗り越える方法が何かあるはずだ。
もう、弱気になんてならない。
向坂くんがいる。
私は一人じゃない。