年下男子は天邪鬼
「そんなのことより、お母さんの病気は大丈夫なの?」


「癌が見つかって手術するらしいけど...。会ってないから分からない..」
 
大地はきまり悪そうに言った。

「はあ?なんで会わないのよ?!」

私は思わず声が大きくなる。

「うるさいな..弱った母親見るのが恐いんだよ... 」

恥ずかしそうにつぶやく大地に私ははあっと小さく息を吐いた。

「ばかっ。そんなこと言って会わなかったら後で後悔するかもしれないわよ?」

大地に問い掛けるが、大地は難しい顔をして迷ってるようだ。
家族の弱った姿を見るのが辛いのはよく分かる。私も大好きな祖母が入院して弱っている姿を見たときは相当ショックだった経験があるからだ。祖母はその入院の数ヶ月後には他界してしまったけど、祖母は私が訪ねるといつも嬉しそうな顔をしてくれるから、私は時間の許す限り病院へ顔を出した。
他愛もない会話しかしてないけど、 最後にみた祖母の嬉しそうな顔は今でも脳裏に焼き付いていて思い出すたびに私の心を温かくさせる。

「ウジウジと頭で考えてないでお見舞い行くわよ!病院まで一緒に着いて行ってあげるから。ねっ?」

するとようやく大地は「わかった」と頭を縦に振った。
私はそれを見てホッと顔を緩ませる。
大地も私につられてフッと顔を緩ませた。

「なんだか依子のふっくらした顔見てたら
食欲が湧いてきた!買ってきたシュークリーム出せよっ」

そして、大地は照れくささを隠すように
ぶっきら棒に言う。

「何よ、ふっくらした顔って(怒)
そんな失礼なこと言うやつにはあげないんだからっ」

私は2つのシュークリームを胸に抱え込んだ。

「お前、その歳でそれ以上太ったら戻らなくなるぞ」

相変わらずの失礼な物言いでシュークリームを奪おうする大地に私は必死で死守する。

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