年下男子は天邪鬼
依子に連れられて病院を訪れた俺は
依子を待合室に待たせて一人母のいる病室へと向かった。

病室に入ると母が「あらっ、大地じゃないっ」とびっくりしたような表情を浮かべて言った。

俺はてっきり弱り切っている母さんを想像してたのだけど顔色も良くて病人とは思えないほどだった。

「見舞い遅くなってごめん。思ったより元気そうだね。」

「まだ手術も抗がん剤治療もこれからだからね...
まっ、悩んでても仕方ないし腹をくくったわ」

そう言って、あっけらかんと微笑む母さんに俺も自然と笑みがこぼれた。
そう言えば父さんが死んだときも“泣いてても仕方ないから気持ち切り替えるために皆で旅行行くわよ”と四十九日過ぎて皆で温泉旅行に行ったことを思い出す。

俺が思い出し笑いをしていると
「このまま、お見舞い来ないんじゃないかと思ったわ」
と母さんは薄く笑みながら言った。

「えっ?」

「ほら、あんた昔から負けず嫌いで威勢のいい事ばかりいう割に
結構、臆病で撃たれ弱かったでしょ?
きっと私より落ち込んでんじゃないかなって心配してたのよ。」

図星なのだけど未だに子ども扱いする母さんに
「そんなことないよ。ただ仕事が立て込んでただけだから」
と強がってしまう。

「本当かしら?」と悪戯に疑いの目を向ける母さんに俺は嘘がつけなくなって「本当は弱ってる母さんを見に行く勇気がなくて
知り合いにここまでついてきてもらった」と白状した。
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