年下男子は天邪鬼
Side依子 

あれから数日が経った。
あの時、心配になって大地のお母さんの病室の前をこっそり通った私は中から二人の楽しそう笑い声が聞こえてきてホッと胸を撫で下ろした。そして、もう大丈夫だろうと二人の邪魔したくなくてひとり先に帰ったのだ。

せめて連絡先を交換しておけば良かったかなと後悔しながら、仕事を終えた私はトボトボと暗い夜道をひとり寂しく歩いていた。

昨日、振った大雪で道はまだ一面真っ白な雪に覆われていて歩けば
ザクザクと乾いた音が辺り一面にこだまする。


それにしても寒い。年々、寒さに弱くなってきているような気がする...

そして私の心も寂しさにかじかんでいた。

大地に抱きしめられた時は淡い期待を抱いてしまったが
もしかしたら弱っているときに傍にいたのがたまたま私だったのかもしれない。

まあ、大地が元気を取り戻してくれたのなら
それはそれで良かったのだけど...。

けじめをつけるため、安斎さんにも改めてお断りのメールを
入れてしまったし、これで完全に婚期は遠のいてしまった。

「やっぱり、安斎さんキープしとけば良かったかなぁ...」

危機感を抱いた私は思わず、ボソリと呟いた。

すると、「お前、公共の面前で堂々と浮気宣言とはいい度胸だな?」
後ろから怒りのはらんだ声が聞こえてきた。

聞き覚えのあるその声に依子はバッと後ろを振り返ると
スーツ姿の大地が眉間にしわを寄せて立っていた。
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