年下男子は天邪鬼
俺の心臓がドドドッと
太鼓を打ってるかのように
全身に鳴り響く。


「あの..」


俺が口を開いたその時、
付けっぱなしだったテレビから
急にカランコロンと
綺麗な鐘の音が鳴り響いた。

俺と依子は思わずテレビの方に
視線を向けた。

すると、ちょうど結婚式場のCMが
流れており、新婦が
幸せそうにヴァージンロードを歩いていた。

依子を見ると食い入るように
その新婦を見つめている。

そして、CMが終わるとその瞳は
再びこちらに向けられる。


「あっ、聞いてほしいことってなに?」


「いやっ、何だったたっけ...?ハハッ」


俺は言おうとしていたことを
飲み込んで笑って誤魔化した。

依子はキョトンとした顔を向けている。

ほんと、自分でもチキンだと思う。

でも依子は近い将来、結婚を望んでいる。

俺だっていつかはとは思うけど
すぐに決断ができる保障がない。

もし付き合えたとしても煮えきらない俺に
依子を不安にさせてしまうのでは
ないかと考えてしまう。

それなら社会人なりたての
俺よりもすでに結婚を意識している
安斉さんのほうが依子の為には良いのではないかと...

色々なことが頭を駆け巡って
その日は何も言えないまま
俺は自分の家へと帰った。

そしてそれから数日間、
俺は依子との接触を避けた。

依子の為にはもう、身を引いたほうが良い...


しかし、頭の中ではそう思っていても
俺はずっと依子に会いたくてしかたなかった。
< 49 / 129 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop