年下男子は天邪鬼
「素直に言わないともう一度キスするけど。」

私の反らした瞳を引き戻すかのように
大地は意地悪に囁いた。

こいつは男のくせになんでこんなにも色気があるのか。

その琥珀色のビー玉みたいな瞳も
グッと男らしい喉仏も
私の理性を狂わせようと誘惑してくる。 

「いやいや、流石にもう戻らないと
二人とも変に思うし。」


私はその瞳から逃げるように
顔を伏せた。

「誤魔化さないで答えてよ」

「答えたじゃない」

「お酒のせいにして逃げるつもりかよ」


私達は抱き合ったまま、押し問答を繰り返す。

すると、「あの〜」と横から申し訳無さそうな声が聞こえた。

えっ??

私達が振り向くと見ず知らずのおばさんが
「お取り込みのとこ、申し訳ないんだけど
そこ通してくださる?」
苦笑いしながら言った。

私と大地はバッと離れると
「「すいません!!」」と
揃って謝りながら道をあけた。

おばさんは「ごめんなさいね」と低い姿勢で
私達の前をすり抜けると女子トイレへと入っていった。

他人にラブシーンを見られるほど恥ずかしいものはない。

おばさんが去った後、私達の間には気まずさだけが残る。

「わ、私、戻るね。」

「あっ、ああ、俺はトイレ行ってから行くよ」

「う、うん。じゃまたね」

なにがまたなのか分からないけど
私はそう言って手を上げた。

「お、おう。じゃまた」

大地もぎこちなくこたえると
男子トイレへと入っていった。

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