壁にキスはしないでください! 〜忍の恋は甘苦い香りから〜
「察するに、葉緩の枝かな?」
「えっ!?」
「鋭いなぁ。さすが、執念深さはよく似ている。というか同じだな」
勝手に納得しあう二人に、葉緩は二人を交互に見る。
混乱して視線をウロウロさせた。
「枝? 私の枝って、あの手折った枝だというのですか?」
「そうだ。気づくのが遅いぞ、我が半身」
(白夜が……連理の枝?)
共に生まれ、葉緩の成長を見守っていた存在。
白蛇の姿をしており、時に人の姿になって葉緩の支えとなった。
金色の瞳に、白い髪。
それはまるで連理の枝と同じ色だ。
白い枝に、うすらと金に光っていた。
「木から離れると人格が宿る。折れた私は葉名とともに過ごし、そして今のお前のもとに再生した」
つまり、白夜を折った。
自分勝手に、白夜を木から折って引き離した。
そう思うと突如不安が襲いかかり、涙が出そうになる。
いたたまれなくなり、手を伸ばして白夜の白い手を包み込んだ。
「怒ってますか? 折られた時、痛くありませんでしたか?」
「はっ……はは! 折った心配をするとは! お前は本当に優しい性格のようだ」
葉緩の言葉に驚き、白夜は目を丸くし、吹き出すように笑い出す。
葉緩の代わりのように腹をよじらせ、零れ落ちた涙を舐めとった。
「蒼依はもっと残酷だぞ? アイツは死んだあと、自分の枝ごと絡まった連理の枝を折ったからな」
「なっ!? そんなことをしたのですか!?」
「折ったら生え変わるかなって。葉緩と結びつくために、匂いを知りたかったから」
何たる強行突破に目まいがする。
枷をとるとこうも無茶苦茶な人だったのか。
だが妙に納得してしまうのもまた、自分も末期症状を患っていると察してしまった。