壁にキスはしないでください! 〜忍の恋は甘苦い香りから〜
「進藤か、おはよ」

「今日ね、調理実習あるじゃん? アタシ、頑張ってクッキー作るから桐哉くんと葵斗くんにもらってほしいなぁ」

「え、オレと葵斗に?」

「あ、でも葵斗くんはいつもいないしなぁ。まぁ、いっか! アタシの気持ち込めて作るから……楽しみにしててね!」


それだけ言ってクレアは走って学校の中に入っていく。

桐哉は中学の時もモテていたが、優しすぎてあいまいな態度をとりがちだ。

その分、葉緩は援護攻撃で追い払っていた。


(主様にベタベタくっついて……許すまじ!)


そうやってすでにいないクレアに悪態をついていると、柚姫が登校してきていた。


「……」

「徳山さ……」


タイミング悪くクレアとの出来事を見てしまった柚姫は俯いて走り出してしまう。


「徳山さん……」


(これは大変だ! 主様の恋の危機では!?)



追いかけることも出来ず立ちすくむ桐哉。

真面目でやさしい穏やかな性格。

だが恋に関しては奥手で、普段の勇敢さは欠片も発揮しなくなってしまう。


(ああ……主様が落ち込んでいられる。 どうすればいいの!?)


トボトボと落ち込んで歩き出す桐哉に葉緩は胸を痛めた。

陰に徹することで、堂々とした応援が出来ない。

これに関しては桐哉が自分で何とかすべき事項のため、葉緩は何もしなかった。


主の子孫繫栄が第一だが、忍びが関わってもろくなことはない。

くっつける演出は出来ても、無関係の人間が混ざると無力であった。


「……無力だ。我慢強く志しを変えないのは難しいよ。私は忍耐がそこまで強くないというのに」


壁に隠れて葉緩は自己嫌悪に陥っていた。

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