壁にキスはしないでください! 〜忍の恋は甘苦い香りから〜


淡い光が白夜を包む。

かと思えばそれは葉緩の手のひらにおさまっていく。


目の前に立っていた白夜の姿はなく、代わりに手のひらには白い枝が淡い金の光をまとい、落ち着いていた。

その枝を見下ろし、葉緩は切なく微笑む。



「……本当に枝だったんですね」

「葉緩、かえしてあげよう? 俺の枝も、白夜さんのこと待ってるだろうから」

「……うん!」



葵斗の手が葉緩の手のひらに触れる。

二人で枝を包み、微笑みあった。


そして二人で腕を伸ばし、枝を根に触れさせる。

折れた部分と根が混じりあい、やがて一つとなる。

木に根付いた枝はゆっくりと伸びていき、やがて葵斗の枝に絡みついていた。


枝の動きがとまると、葉緩の鼻を一つの匂いがくすぐる。

唯一の匂いを嗅ぎ取った葉緩は笑って顔を両手で覆った。




(なんという不思議な匂い……。これはたしかに離れがたきものですな)




「んふふふ……ん?」





――再び、強烈な光が葉緩たちを包み込んだ。


目を開くと葉緩の部屋に戻ってきており、ちょこんと床の上で正座をしていた。


「……戻ってきた?」

「ね……」



向き合って正座しており、目が合うとじっと見つめあう。



「……ふ」



二人とも間抜けた顔をしており、だんだんとおかしくなって笑ってしまった。



「はは、あはははは!!」



葉緩は手を伸ばし、葵斗の手を握りしめる。

そして穏やかな笑みを浮かべ、甘い言葉を伝えるのだった。



「改めましてよろしくお願いします。私の旦那様」


「こちらこそ、よろしくお願いします。俺の花嫁殿」



空を飛ぶは比翼の鳥、地で結ぶは連理の枝。


――繋ぐはいとしきぬくもり。



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