壁にキスはしないでください! 〜忍の恋は甘苦い香りから〜


***


「えっ!? 葉緩ちゃん、望月くんと付き合い始めたの!?」


「は、はい……。 姫と桐哉くんには最初にご報告したくて」

葉緩と葵斗は、最初に桐哉と柚姫に報告し、繋がれた手を見せる。

最初は驚いていた二人であったが、しっかりと指が絡み繋がれた手を見て安堵の笑みを浮かべる。

デレデレとしながら葉緩は二人に向き合っていた。



「そっか、おめでとう」


葉緩の幸せを心から祝福する柚姫。

妙に気持ちが穏やかで、安心していた。

ふわりと笑って、葉緩の頭を撫でていた。



「良かったなぁ、葵斗。 もう俺に八つ当たりするなよ?」


ニヤッと笑い、肘で葵斗をつつく桐哉。

まったく動じず、葵斗は誇らしげに葉緩の手を握りしめ、笑みを浮かべていた。



「しないよ? 俺はすごーく幸せだから」

「葵斗、喧嘩売ってる?」

「別に? 今度こそ責任もって葉緩を大事にするし」


あぁ、と声を上げて柚姫に目を向ける。



「なんだったら柚ちゃんにもお礼しないといけないから」

「葵斗くん何を言ってるのですか!?」



二人は前世のことを覚えていない。

人は通常、前世を覚えてないものだ。

葉緩もまた前世を覚えていなかったわけだが、今こうして思い出すと何故、桐哉が魂の主だったかを理解する。

子を守る方法に悩んでいた葉名に、生きていく道筋を作り、柚との子と分け隔てなく可愛がってくれた人だった。

桐哉が葉名を見つけて手を差し出してくれなかったら、きっと葉名も子も死んでいた。


生涯の忠誠は、葉緩になっても変わらず桐哉を見つけた瞬間に「この方が魂の主」と認識し、今日まで至る。

柚姫が現れ、桐哉が恋をし、将来の伴侶と確信したのもこのためだろう。

どの女の子が桐哉に近づこうとも、葉緩はいつも違うと思っていた、

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