壁にキスはしないでください! 〜忍の恋は甘苦い香りから〜
「葉緩は誰かにあげないの?」

「え、私は父う……お父さんにあげようかなって」

「ふーん、そうなんだ? 欲しがるヤツ、いると思うけどなぁ」

「そ、それは困ります!」


桐哉のからかいに素早い反応で拒絶する。


「なんで?」


(だって目立つってことだから! 誰かに意識されるようでは忍失格!)


「わ、私は自分より他のことに夢中なので……」


それが桐哉の恋を成就させること、と思いもせず桐哉はよくわからずに笑う。


「……そっか、まぁがんばれよ?」


頭をぽんぽんされる。

その瞬間、葉緩は目を輝かせ、マシュマロのようにとろける笑顔を浮かべた。



(主様からのご褒美だー!)


間違ってもその喜びは恋ではない。

言うなれば葉緩は桐哉の忠犬のようなものだった。


「……」


それをたまたま教室に入ってきた柚姫が目撃する。

かわいくラッピングされたクッキーを持っていたが、二人の楽しそうな様子を見て慌てて離れていく。


(およ? 私がいると渡すタイミングが難しいですよね)


「それではまたあとで、色々お聞かせください!」


バビュンと嵐のように教室を飛び出していく。

見慣れはしたものの、奇怪な行動の多い葉緩に桐哉は笑わされることが多かった。


「相変わらず足速いなぁ」


柚姫に気付いたのは葉緩のみ。

気配に敏感な葉緩だからこそ、柚姫が見ていたことに気付いたというのに、まさか自分が障壁になっているとは思いもしないのであった。
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