壁にキスはしないでください! 〜忍の恋は甘苦い香りから〜


事が落ち着き、柚姫は安堵の息をつくと葉緩へと振り返る。

その笑顔はとても穏やかなものだった。



「ありがとう、葉緩ちゃん」

「姫が傷つけられたら怒る! 当たり前です!」

「葉緩ちゃん……」


喜びに浮かれ、葉緩に抱きつこうとする。

だが体育館の外から走ってくる人物にその手を止めてしまった。



「徳山さんっ!!」

「桐哉くん? キャッ!?」


駆け寄ってきたかと思えば肩を掴まれ、つい柚姫は短い嘆声を発する。

桐哉は焦った様子で柚姫の顔を覗き込んでいた。



「葵斗から騒ぎになってるって聞いて。それでいてもたってもいられなくて。怪我は……」

「だ、大丈夫。鼻血がちょっと出ただけだから……」



そこで止まったはずの鼻血が再び流れ出す。

恥ずかしくなり、柚姫は小さく悲鳴をあげ、あわててティッシュで鼻をおさえつけた。

桐哉は青ざめたかと思うと、とたんにムッとした顔をして柚姫を抱き上げた。

周りから黄色い悲鳴があがる。



「全然良くない! 服にも血がついてる! 早く洗わないと! それにティッシュももっと必要だ!」

「あ、あの、桐哉くん!? お、下ろして……え、ええーっ!?」


柚姫をお姫様抱っこして桐哉は体育館から出ていこうとする。

周りは圧倒的な王子の登場にすっかり射抜かれ、黄色い歓声をあげていた。

それは葉緩もまた同様で、目を輝かせてガッツポーズをとっていた。

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