壁にキスはしないでください! 〜忍の恋は甘苦い香りから〜
「まったく仕方ないなぁ。ほら、葉緩。手を出せ」

「ああああっ! そんな恐れ多いことは出来ません!」

「いいから! ほら、このままだと目立つぞ?」

「はっ! それはダメですぅ」


桐哉は葉緩の魂の主。

その手を煩わせることは断じて許すことが出来ず、葉緩はぐっと現状をこらえる。


「……葉緩ちゃん、数学サボりがちなんだからちゃんと出ないと」

「数字を見ると目が回るのです……」


柚姫の言葉に逃げ道を狭められる。

葵斗から脱出したい。

数学からも逃げたい。

だが桐哉に助けを求めるのは葉緩の矜持が許さない。

苦悩に唸っていると、桐哉と柚姫が目をあわせ、笑い出していた。


「なんで笑うのですかぁ!」

「……葉緩、黙って」


ーーモゾモゾ。


「んっ……ちょっと! どこ触ってるんですかー!?」


暴れる葉緩を抑え込み、擦り寄るように抱きしめてくる葵斗。

何をどうしたらよいかわからなくなり、目の前がグルグルと回転していた。

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