壁にキスはしないでください! 〜忍の恋は甘苦い香りから〜
その想いに返せるものがあるのなら、見つめ返したい。
つっかえるものはもう、かき消してしまおう。
力技でぶつかれるのは、葉緩の長所なのだから。
「咲千代さん、私の幸せを邪魔するなら戦います! 大切な人の想いを阻止するなど邪道!」
「葉緩……」
嬉しそうに目を細めて笑う葵斗に胸がくすぐられる。
(あぁ、くそぅ。これってでろでろの甘々というやつではないですか?)
――負けていられない、と誇りが口角に現れた。
「ここは忍らしく戦わせていただきます」
机に飛び乗り、指を交差させた構えをとる。
「我流忍法・【桜花爛漫(おうからんまん)】!!」
ぶわっと桜の花びらが舞い、鮮やかに視界を隠していく。
「花!? くっ、なるほど。視界を狂わせる忍術か。こんなもの、我が忍術で」
手のひらを天井に向け、息を吐く。
その手を下すと風が吹き荒れ、葉緩に向かって突き進んでいった。
「忍法・【塵旋風(じんせんぷう)】!!」
――ビュオオオオオ!!
渦巻き状に回転しながら風が立ち上がる。
花びらを収束させ、視界をクリアにしていった。
それを見て葉緩は口角をあげ、勝機を見る。
「かかったり」
風をまとうは葉緩の十八番(おはこ)。
花も風も、乗っ取って葉緩は自分の力に変えていく。
「秘儀・【花嵐(はなあらし)】!!」
「うっ……キャアアアアアアッ!!」
凝縮された花びらの塊が弾丸のように咲千代にぶつかる。
風の勢いと花びらを力技で合体させた葉緩の忍術であった。