壁にキスはしないでください! 〜忍の恋は甘苦い香りから〜
「……蒼依くん?」
「連理の枝よ、どうか俺の願いを聞いてください」
身に染みる声に葉名の身体が震えだす。
「俺は葉名が好きです。だからどうか、葉名の枝と結びつきますように」
「……そう、だといいな」
――これは葉名の言葉ではない。
葉名は今、身を隠しているのだから。
独り言を呟いている蒼依が聞いている幻聴に過ぎない。
だから嬉しそうにふわりと微笑む蒼依に、胸をくすぐられているわけではない。
月明かりに惑わされた幻覚だ。
「大丈夫。絶対に葉名を守ってみせるから」
「……ほんと、ずるい人」
再び重なる唇に、葉名は焦がれるように目を閉じた。
(私を蔑まず、真っ直ぐに見てくれた人。その生き方に強く憧れた)
――身の程を知らず、私はあなたと結びつくことを願ってしまった。
でも誰よりもずるかったのは私。
私にもう少し勇気があれば……。
──あなたと結ばれる未来があったのかもしれない。