壁にキスはしないでください! 〜忍の恋は甘苦い香りから〜
(し、心臓に悪い。あー、ダメ! 今更ですがとても恥ずかしいのです!)
「そ、それではまた! が、学校でお会いしましょう!」
「まだダメだよ」
「ふあっ!?」
しっかりと壁と葵斗の間に挟まれ、顎(あご)を押さえつけられる。
「葵斗くん!? っん!? ん、んん……!」
チュっと音を立てたかと思うと、覆うように深く唇が重なる。
とっさに目を閉じてしまうが、触れる感覚と聴覚に意識がいき、余計に恥ずかしくなってしまう。
(くらくらする。熱に溺れそう)
親指で頬を撫でられ、羞恥が限界に達し、葵斗を突き飛ばす。
息を乱しながら葵斗を睨みつけると、葵斗はニコニコとしながら葉緩に触れていた親指で唇をなぞった。
色っぽい仕草に余計に顔が朱に染まる。
「葵斗くん、強引です。 だいたい、私が壁に扮してる時もこのように……キ、キスするのはヒドイではありませんか!」
「葉緩は頑固だから絶対に動かないもん。これほど好き放題できることはない」
ガーン。
まさにそんな音が聞こえた気がした。
葉緩は壁に扮するとき、気配を探られることのないよう細心の注意を払っている。
その隙をつかれ、壁だと言い張り耐える葉緩をもてあそんでいたというわけだ。
恥ずかしさよりもだんだんと怒りが募ってくる。
全力で葵斗に向かい、叩こうとして抑えられる。
足をバタバタとさせ、吠えることに徹した。
「鬼畜! 不真面目! もう少し謙虚になってください!」
「無理。というかやだ」
これは本当に“あの蒼依と同一人物なのか”と疑ってしまいたくなる。
それほど葵斗は葉緩に遠慮がなかった。
……よくよく考えれば、ゴリ押しなところは同じである。
(これは……とんでもない人を好きになってしまったようです!)
「本当にのぉ。ある程度の落ち着きは必要だぞ。熱しやすく冷めやすい、のが始まりと言うもの」
葉緩の心の声にこたえるように、落ち着いた声が耳に入る。
顔をあげるとこちらをじっと覗き込むように腕を組んで眺める白夜がいた。