壁にキスはしないでください! 〜忍の恋は甘苦い香りから〜
「白夜!? み、見ていたのですか!?」
「私と葉緩は一心同体。なんでも見てるし、なんでも知っているぞ」
「がーん! それってずるいです! 私は白夜のこと知らないこと多いですよ!」
ケラケラと笑う白夜に吠える。
すっかり怒りの対象が葵斗から移ったようだ。
ニコニコしながら葉緩を抱きしめ、事の経過を観察することに決め込む葵斗。
一つ意識を移せばもう一方はポーンと抜けてしまう。よくあることだった。
それを視界にいれながらも葉緩を見てニヤニヤする白夜。
「全部知っていたら満足なのか? 知らないことがあるとお前は不満に思うか?」
「別に。知らないことがあっても白夜は白夜ですから」
不満に唇を噛む。
白夜は葉緩の相棒であり、生まれたときから共にいる白蛇だ。
だがその割に白夜は自身のことを語ろうとしなかった。
小さな葉緩の話をなんでも聞いてくれる姉のような存在であった。
「ただ白夜は秘密主義というか。たまには教えてくれてもよかったのではと……」
そこまで言い、ハッとして白夜を睨みつける。
「というか、もしかして私と葵斗くんのことも知っていたのではないですか!?」
「うーん、知ってるといえば知ってた。だが葵斗がどうしたかったまでは知らん」
「……なんで葵斗くんは白夜が見えるのです?」
のらりくらりとはっきり答えない白夜に問うてもきりがないと判断し、葉緩は葵斗に質問を切り替える。
しかし葵斗もキョトンとしており、首を傾げてじっと白夜を見ていた。
「わかんない。けど白夜さん、いい匂いだよね。 葉緩と同じ匂いがする」
「まぁ、生まれた時からずっと一緒にいますから。匂いが同じでも不思議はないです」
ふと、思い出すは白夜と過ごした幼い頃であった。
よく一人で喋っている変わった子とみられることが多かった。
「小さい頃は気味悪がられたものです。誰と話してるのかと。父上も白夜は見えなかったみたいですし」
「そっか。ということは……白夜さんは葉緩に縁がある存在というわけだ」
にこっと葵斗が白夜に笑いかける。
白夜もまた、にっこりと微笑み返した。