Melts in your mouth
「肩重いんだけど。」
「魔法を掛けてるんです。」
「呪いの間違いじゃないの。」
「酷いなぁ。先輩が俺に恋してくれますようにっていう魔法ですよ~。」
「やっぱ呪いじゃねぇか。」
「呪いは山田さんに掛けますのでご心配なく。」
「最低過ぎて笑う。何、あんた、山田に嫉妬してんの?」
「当たり前でしょ。」
「え?」
「生まれて初めてってくらい嫉妬が爆発してます。山田さんがライバルとか、強敵過ぎてぴえん。」
“でも、負けるつもりはないですけどね”
へにゃり。口角を緩める平野はやはり何処か元気がない。
「山田と私の邪魔するという最高に格好悪い登場の仕方だったけど、勝てんの?」
捻くれている私が投げた問い掛けに「うっ」と小さく声を絞って頭を抱えた平野は、「否めない。漫画だったら確実に当て馬的な登場の仕方してた…あ、でも俺イケメンだし後から追い上げる主人公タイプだから大丈夫か~♫」たったの三秒で落ち込んで立ち直った。そういう所だぞ、平野 翔。
こいつのこういう阿呆みたいに軽率で楽観的な性格が、かつては一々私の癪に触って生理的に嫌悪していた。
「はぁ…疲れた。酔いも覚めた。タクシー拾う。」
「えー?俺と電車で帰宅デートしてくれないんですか!?」
「こんなびしょ濡れ男と電車乗れるかよ。乗客全員に白い目向けられるぞ。大体あんた、一刻も早く帰らないと風邪引くでしょ。」
「あ、俺のことを想ってくれてるんですね?もーう、永琉先輩ってばツンデレなんだから。そういう所も可愛いですアンド愛してます。」
「気持ち悪。」
「それも愛の裏返しですよね?」
「あ、あのタクシー空車だ。」
「ちょっとー?永琉先輩可愛い後輩を置いて行かないで下さーい。」
そんな平野に対して明らかに今までとは違う反応を示す自らの心に、いい加減私は向き合わないといけないのかもしれない。