Melts in your mouth


湯気を揺蕩わせているお粥と、彩りとして添えた青葱と半熟ゆで卵。そして豚汁。それ等が置かれたテーブルを前にした平野は口をあんぐり開けながら、瞳をきらりんレボリューション(世代)



「…永琉先輩が作ってくれたんですか?」

「逆に私以外誰が作るわけ?お粥くらい焦がさず作れるって事を証明してやろうと思って。」

「うわーーーどうしよう頭がフワフワしちゃう。」

「熱のせいだろ。」

「違いますよ!!!永琉先輩が俺に手料理を振る舞ってくれたという甘い現実にです!!!幸せで脳が溶けちゃいそう!!!」

「あんたの脳はいついかなる時でもドロドロに溶けてるじゃん。少しは凝固しろって思ったことしかないんだけど。」



カシャカシャカシャカシャカシャ



「嬉しい~。記念にちゃんと物的証拠を残しとこっと。」

「話聞けよ。てかそんな見映えの悪い献立の写真をわざわざ残すな。」

「ふふっ、何だか熱出して良かったかも。」

「馬鹿じゃないのさっさと食べろ。」



様々な角度からの撮影会を済ませた相手は、私の台詞にとろりと目尻を下げて「はーい」と間延びした返事を零す。高熱に冒されている癖にヘラヘラ笑ってやんの。そして絶対にこいつが今撮ってた写真はデータの容量しか食わないだろう。データ食う前に目の前のご飯をちゃんと食え。


手を合わせていただきますと小さく漏らした平野が、木製のスプーンでお粥を掬ってフーフーと息を吹きかけた。自分の作ったご飯を誰かに食べて貰うのは初めてだという事実に気付いてしまった私は、変に緊張していた。

心臓がドックンドックンしているけど、できる限り平静を装って頬杖を突く。やがてお粥を口に含んだ平野と視線が絡まり、破顔した相手が放った「すっごく美味しい」の一言に拳を握っていた手が緩んだ。



嗚呼、人に美味しいって言って貰えるってこんなに嬉しいのか。ゲームに時間を割いてきた人生だから、料理のレパートリーは目を見張る程に少ない。そんな私が有している僅かな技術で作られたお粥と豚汁を平野は阿呆みたいに「美味しい」「本当に美味しい」ってベタ褒めしている。


それが無性に照れ臭く感じて、何となく視線を逸らしてしまった。視線を逸らした先には花瓶に花が生けられていた。随分と丁寧な暮らししとんなこいつ。そう思った。



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