Melts in your mouth
第四章
デレデレ甘々な男
「おはようございまーす!sucréのスーパーアイドル平野翔、完全復活しました〜。ご迷惑お掛けしましたすみません。」
翌日、就業時間五分前に登場した平野は、相変わらずのウザさ120%で笑顔を振り撒いた。素朴な疑問なんだけど、お前いつからうちのアイドルになったん?
新入社員組がキャーと黄色い声を上げてパチパチ手を叩いて歓迎している。部長を含む上司の面々も「sucréに華が戻った」なんて、非常に大袈裟な言葉を放っている。
髙橋編集長に至っては、静かに涙の筋を頬に作りながら合掌しているではないか。
「これは平野君の復活祭をしなくちゃだわ!!!気のせいかしら、何だか平野君がイエス・キリストに見えちゃう。」
独り言にしては余りのもでかい髙橋編集長の漏らした言葉に「うん、絶対気のせいですね」と胸中で返事をしておいた。
「皆さんにご迷惑掛けたお詫びにほんの気持ちなんですけどマカロン買って来たから、良かったら食べてねー。」
ケッ!抜かりのない奴め。お前って弱点とか欠点とかないのかよ。
マカロンで有名な洋菓子店の名前が書かれている小洒落た紙袋を掲げて見せて、首をコテンと折り曲げる平野の全ての言動が打算的に映る。田中みな実よりも田中みな実だなこいつ。
仕事が山積みのデスクの上で手を止めて、頬杖を突く。視線の先にいるのはsucréメンバーに囲まれて中心でへらりとしている男。
「……でもまぁ、無事に治って良かった。」
自分の顔が自然と綻んでしまうのは否めない。それで以って、ここにいる誰よりもあの男の復帰を嬉しく思っている事も又然りなのだろう。
まさか平野を好きになってしまうなんて。よりにもよって平野に落ちてしまうなんて。生理的に嫌悪していた平野を恋しく想う日が来るなんて…。
菅田 永琉 満28歳 某大手出版社勤務。編集者歴実に6年。これまで幾つかのTL漫画を担当してきただけに断言できる事が一つだけある。
今私は、どの漫画のヒロインよりも漫画みてぇな恋愛をしてしまっている。