Melts in your mouth



「相席しても良いか?」と丁寧に訊いてくるのが山田らしい。「勿論」実に短く返事して首を小さく縦に振って、一杯目のビールを飲み干した。


山田の登場に、アルバイト生と思しき女性の空気がガラリと変わる。さっきまでの気怠そうな態度は何処へやら。満面の笑みを携えて、山田におしぼりを差し出している。



「とりあえず生お願いします。…と、菅田は二杯目どうする?」

「ん、同じので。」

「それじゃあ生二つお願いします。」



そんでもって、山田遊雅という名の鈍感な男は、自分に向けられている好意にこれっぽっちも気づいていない。ていうかこの男、学生時代からずーっとこんな調子だよな。何も変わってない。

兎に角良い奴で、欠点なんて見当たらなくて、面倒見も良いし周りからの信頼も厚いし、社会人になっても仕事ができるから上司からも好かれまくっている。しかも容姿が抜群に整っている。


そんな完璧人間なのに、山田が好きな相手が菅田永琉というゲーマーで怠惰な人間だという事実が非常に解明不能なミステリー。


でも、案外そういう物なのかもしれないと思うのは、私が平野に恋をしていると自覚してしまったからだろう。


< 144 / 170 >

この作品をシェア

pagetop