Melts in your mouth
酔いを醒ますには丁度良い湿度の高い風を浴びながら、居酒屋を出てから肩を並べて歩いている相手の横顔へ視線を伸ばす。夜空には夏の大三角形が輝いていて、駅までの短い道程だというのに、首筋や額には汗が浮く。
スーツを身に纏っている山田の方が絶対に暑いはずなのに、相手は汗もかいていないし何なら涼しい顔を浮かべている。毛穴という概念はないんか?
「すっかり夏だな。」
「だね。ついこの間新年度を迎えた気がしてたのに。」
「なぁ、菅田。」
「ん?」
「今日ちょっと暗かっただろ。」
「…そんな事ない。」
「ある。」
「平野のことか?」
「え。」
駅の改札が前方に現れた刹那だった。横から投下された言葉に心臓を突かれ、無意識に歩いていた足が止まった。
私とほぼ同時に停止した相手へと顔を向けると、真剣な表情をしている山田が視界に入る。酒が回っているせいだろうか、相手の顔が薄っすらと赤く染まっていて、溢れている色気が留まることを知らない。
「あいつなら大丈夫だから心配すんな。」
どちらも無言の時間が数秒だけ流れた後、再び開口した山田が沈黙を絶った。