Melts in your mouth
強く掴んで離さない熱い体温を辿って視線を滑らせれば、吸い込まれそうになる三白眼と視線が絡む。口許に浮かぶ三日月の形は、こいつの作り笑顔の時のそれではない。作り笑顔か否か。その判別ができてしまう位の時間をこいつと過ごしている現実に悲しくなる。
「俺は寂しいですけどね。」
「…は?」
「永琉先輩との時間が減っちゃうの、寂しくて堪らないです。だって、今までは俺だけの永琉先輩だったじゃん。」
“俺、うさぎ並みに寂しがり屋なんで、寂しさの余り死んじゃうかも”
細められた眼がマジで余計な程に扇情的なせいで、油断していた心が操られて危うく見惚れそうになってしまった自分に喝を入れて我に返る。
何でこいつ仕事しに来てるのにこんなに色っぽいんだよ、その色気いらないだろ。せめて業務中は封印しろ。あと心底理解できない台詞を落とすのやめてくれる?反応にも返事にも困るわ。
「へぇ、それじゃあくたばれば?平野の担当している仕事は私が引き継いであげる。これで私の給与もアップ間違いなしだしウィンウィンじゃん。」
「はぁ…相変わらず容赦ないですね。その暴言、パワハラに抵触すると思いまーす。ハラスメントはんたーい。」
「あんたにだけは抗議されたくないわ。」
「でもまぁ…。」
“そういう永琉先輩が、俺は大好きです♡”
クスクスと肩を揺らして声を零した平野は、悪寒の走る言葉を囁く様に吐いてさっきまでペンを回していた人差し指で、私の頬をぷにっと突いた。