Melts in your mouth



オフィスカジュアルな服さえ着てれば問題ないsucré編集部とは違い、お堅い部署に属している相手は本日もキッチリ皺の無いスーツを身に纏っている。

毎日スーツとか想像するだけでしんどい。これで電車に乗って出勤して夜まで働いてまた電車に揺られて帰るんでしょう?そんで毎日かは分からないけどワイシャツにもハンカチにもアイロンあてるんでしょう?めっちゃ嫌だな。


すっかり氷が溶けて分離しているコーヒーをストローでかき混ぜて吸い込みながら、広報部に配属されなくて良かったとつくづく思う。



「そういや今年度、sucréに新卒三人も入ったんだってな。やっとじゃん。」

「それな。」

「あいつとは仲良くやってんの?」

「あいつって?」

「平野に決まってんだろ。」

「げっ、昼休みにまであいつの名前聞きたくないんだけど。」

「その様子だと、お変わりなく超仲良しって感じだな。」

「何処がだよ。」



こっちが嫌悪感に満ち満ちた表情を浮かべれば、ケテケテと腹を抱えて大笑いしている男。毎度顔を合わせる度に、私と平野の関係性をコンテンツとして面白がっているこいつの名前は山田(やまだ) 遊雅(ゆうが)


高校生の時から一緒の腐れ縁で、私が唯一喋る同期でもある。山田とは何かと縁があり、大学に至っては学部まで一緒だった。きっかけはあんまり覚えてないけど、山田とはいつの間にか仲良くなっていた。



「てか、何でそんなに菅田は平野が嫌いなの?」

「具体的に述べられる理由はない。」

「ひっでぇな。」

「何ていうか平野の全身から漏れている人生イージーモードですっていう空気感が一々癪に障る。」

「あー、それは何となく分かる気がする。」

「マジ生理的に無理。」

「でも平野って、実際仕事すげぇできるだろ?平野が担当している漫画がドラマ化された時、広報部で俺も担当に入ってたから何度か顔合わせたけどめっちゃそつなくこなしてたし。」

「あいつ、仕事だけはできるから。」

「俺の上司が平野を褒めてたんだけどさ、平野は永琉先輩のご指導のおかげですってあのイケメンフェイスに満面の笑み咲かせてたぜ?普通に良い後輩に恵まれてんじゃん。」

「いや騙されてるな。私のビターチョコレートを堂々と窃盗して、その包み紙という名のゴミを部長のデスクに平然と捨てる奴が良い後輩な訳がない。」

「え、マジ?平野ってそういう事すんの?意外~。」



目を丸くしてるとこ悪いけどこっちからしたら微塵も意外じゃない。寧ろあれが平野の本性だとすら私は思っている。


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