Melts in your mouth
明瞭な栄養素に胃が喜んでいるのが自分でもよく分かる。南瓜の煮物もきんぴらごぼうも葱入り卵焼きも、全部私が何気なく好物だと発した料理ばかりでそれを覚えてくれて尚且つ作ってくれた山田の人間性には恐れ入る。
箸を持つ手が止まらなくて、次から次へと山田特製無添加栄養弁当の品物を口に運んでいく。
こんな手料理を食すのは実に何年振りだろうか。母親と祖母の料理が無性に恋しくなった。仕事が多忙だという理由に暫く実家に帰ってないからな…有給はゲームに費やしてしまって碌に連絡すらしていないから、定期的に「あんた生きてる?」という生存確認のメッセージが母親から届く。
冷静に考えると相当な親不孝者だな私。
「ご飯作ってる暇があるならゲームのレベル上げ!みたいな生活を積み重ねている内に冷蔵庫が水と野菜ジュースだけの人間になってしまった。」
「ハハッ、その生活スタイル高校時代からほぼ変わってねぇじゃん。」
「ぐうの音も出ない。山田は偉いよね、ちゃんとご飯も作ってさスーツもシャツも皺なんてないし。もしかしなくても『#丁寧な生活』ってタグ付けてSNSで絶大な人気を誇ってたりする?」
「そんな暇ねーよ。」
「勿体無い…山田の料理って本当に栄養バランスも取れてて美味しいから需要あるよ。」
「そう?でも、俺は菅田にそう言って貰えるだけで充分。」
モグモグと咀嚼する私を、頬杖を突いてじーっと見つめている相手が微かに口角を上昇させる。こんながさつ女が昼飯にがっついてる姿を見て飽きないのかは素朴な疑問である。
窓ガラスから射し込む陽の光が、私達の影を地面に伸ばす。日光の温度は丁度良い温かさだけど、外に出ると空気はまだまだ肌寒い。
すっかり初夏だなぁ…なんて、自然を愛でる感性が大幅に欠落しているはずの私が、訪れている季節に妙な感慨深さを覚えて目を細める。そんな風情を愛でるだなんて普段なら絶対にしない事をしてしまったからだろう。
「山田ってどうなの?恋人とか作る気ないの?」
夏=青春と恋の季節という実に陳腐な思考を巡らせた私は、割と踏み込んだ疑問を山田にぶつけていた。