Melts in your mouth


次はねぎまの塩焼きが刺さっている串を手に取って豪快に喰らい付く。タレと塩のどちらかが基本の焼き鳥だが、私は圧倒的な塩味支持者だ。

さっきから殆ど食していないマブダチに「焼き鳥が冷める前に食べれば?」そう問うても、そんな事なんてどうでも良いと言わんばかりの圧力と強い意思を相手は放っている。


黙っていれば全く可愛らしい女だと改めて思う。どうしてこんなに可憐な容姿に恵まれたのにいつまで経っても変な物にばかり溺れているのか甚だ疑問である。



こうしていると私が親友に冷酷な女かの様に映っている可能性があるので説明を補足しておくが、草間 結芽という女は本当に生粋の阿呆なのだ。


高校生の時は世間一般的にそこまで人気のないソシャゲに(うつつ)を抜かしおり、推しに貢ぐと言って週6でバイトしてその収入の九割を平然とゲームに溶かしていた。しかし結芽一人の財力で一つのコンテンツが続く訳もなく、たった二年でそのソシャゲはサービスを終了。結芽の全資産は文字通り(あぶく)と化した。



大学生時代はホス狂への門を叩き、学業そっちのけで歌舞伎町通いの日々を送っていた。驚くなかれこの女、その時は四つのアルバイトを掛け持ちしてその辺の社会人より高い金を稼いでいた。全てを預金口座に振り込んでおけばこいつは今頃もっと優雅に人生を送っていたに違いない。

だがしかし、お馬鹿街道まっしぐらの結芽は再三私が忠告したにも関わらず給料の全てを担当ホストに注ぎ込んだ。本来ホストクラブとは仮初(かりそめ)の恋を愉しむ場所であり、本物の恋心を抱いたら最後、破滅しか待っていないからこそ私は懸念を募らせていた訳なのだが案の定、この女は自分の担当ホストに恋心を芽吹かせた。


欲しいと言われれば例え経済的に苦しくとも無理をして、誰もが知っている高級ブランドのバッグやベルトやコートや靴を惜しみなくホストに買い与えた結果、そのホストは勤務していた店に多額の売掛を作り蒸発。結芽の大学四年間にも及ぶ労働の成果は一瞬にして音信不通となった。




これで流石にこいつも懲りただろうと踏んだ私も愚かであった。



担当のホストに裏切られて落ち込んでいた結芽にここぞとばかりに擦り寄って甘い言葉を囁いたのが同じ店に勤務していたその店の新人ホストで、私の慰めの言葉にはまるで耳を貸さなかった癖に新参者のホストの言葉にはコロっと落ちた結芽は今度はそのホストを担当に指名。そうして同じ過ちを繰り返したのだった。全く以て愚の骨頂である。


もう何も言うまいと傍観を決め込んでいた私だったが、結芽の二番目の担当ホストが昨年突如引退を発表。店を辞めたホストが数ヶ月後、連続ドラマで当て馬役として出演しているのを偶然視聴した時には顎が外れそうになった。それ位の衝撃と破壊力をあの男は持ち合わせていた。


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