Melts in your mouth
結芽の努力(と呼んで良いのかは分からない)が遂に実を結んだのだと半ば興奮気味に「結芽の担当してた子、俳優として大成してるじゃん」と告げたのだけれど、返って来たのはこちらの予想の斜め上を行く回答だった。
「へぇーそうなんだぁ。手が届かない人には興味ないからどうでも良いやぁ。」
頬をぷっくりと膨らませて季節限定のフラペチーノをストローで吸引した結芽の瞳は明後日の方角を眺めていた。どうやら結芽は自らの手が届く範囲にいる男にしか興味がないらしい事を私はその時初めて知った。
加えて、貢ぎ癖が治らない限り、結芽が絶対に幸せになれない事も私は覚った。
「ねぇ、永琉聴いて?私ももう社会人だし、お国に納める税金とやらも発生しちゃう歳だから推しを作るのは引退しようと思うの!」
苺の果肉を吸い上げながらピースサインを作った結芽を見て私は思った。こんなにも信用ならない宣言を聴くのは生まれて初めてだと。街頭演説で嘘っぽいマニフェストを語っている政治家よりもよっぽど結芽の引退宣言の方が信憑性が低かった。
かくして、結芽の引退生活が始まったのだが……。
「お願いします永琉様。本当にこの通りです、大親友の私の為に日曜日の夜を捧げて下さい。私の推しが他の女に盗られるなんて耐えられないのでお願いします。」
「却下。」
「やだやだやだやだぁ~!!!却下しないでぇ~!!!!承ってよぉ~!!!」
ご覧の通り、この女は既に新たな推しが居るらしい。