Melts in your mouth
ほら見た事か、言わんこっちゃない。あの時の引退会見を忘れたのか貴様。季節限定のフラペチーノを飲んで「私って駄目な女だよね、貢ぎ過ぎてこのフラペチーノの料金が激安に思えるもん」とか哀愁を漂わせながら漏らしていたのは何だったんだ。
「あんた推し作りから引退したんじゃなかったの?」
「えーっと、えへへ、そのつもりだったんだけどぉ、運命の出逢いを果たしちゃいまして。」
お前の人生において運命の出逢いとやらは一体何回あるんだよ。ソシャゲのキャラクターの時も第一のホストの時も第二のホストの時も「運命の出逢い」って言ってなかったっけか?おん?
新しい推しに想いを馳せているのか、酔いが回っているのか、頬を赤らめて口許を緩める親友は悔しいけど最高に可愛らしい。同性の私ですら胸がキュンと鳴る。
空になったジョッキを軽く掲げてお代わりをお願いした私は、砂肝の串を手に取ってこっちを凝視している結芽と視線を絡めた。
「私はもうあんたの仔犬の様な瞳には騙されないからね。」
「私思ったの。やっぱりね、残酷な現実しかない“お仕事”をするには、お花畑と夢しかない“推し事”がなくてはならないなって。」
「無視すんな。そんでちょっと巧い事言うな。」
「じゃあどうすれば良いの!?!?日曜日の夜、ノラ君を指名して予約取ってるのにそれを他の女に譲れって!?!?そんなのあんまりじゃない!?!?」
「逆ギレ草。」
「だからお願いします永琉様。どうか兄の結婚式に出席しなきゃいけないという悲しい宿命を背負っている私を助けて下さい。」
さっきから気になってたけど、これって単純に兄貴の結婚式を忘れてた結芽の責任じゃないの。しかも兄貴の結婚式に出席する事を悲しい宿命とか言うなよお兄さんが可哀想だろ。
「はぁー……。一応訊くけど、結芽の今の推しって誰なの?」
「え、永琉様…。」
「ちょっと、期待に満ち満ちた瞳を輝かせるのやめて。一応訊いてるだけだからね。一応!!!」
「ノラ君は超絶麗しいお顔で身長も高くてすっごく優しくて、文句の付け所がない子なの。」
「だからそのノラ君とやらは何をやってる人間なのよ。」
「風俗のスタッフだよ。」
「……え?」
「だーかーら、女性用風俗のスタッフだよ。」
え?
ごめん、二回聞いても「え?」しか出てこないんだけど。え?え?え?この女、今可憐な笑みを咲かせてとんでもない発言しなかったか?女性用風俗のスタッフ?え?