Melts in your mouth
阿呆だ。もう阿呆だという感想しか出てこない。語彙力を完全に喪失してしまっている。それくらいに『マブダチの風俗通い』というトピックスはここ数年の中で一番の衝撃であり、菅田 永琉の人生新聞の一面を飾った。
「ノラ君が他の女にご奉仕してるとか考えただけで殺意湧く。」
「あんたそれ、ガチ恋という奴なんじゃないの?」
「私だけに飛びきり甘いノラ君でいて欲しいの!!!だからこそ親友の永琉にしかこんな事頼めないの!!!」
「おい、少しはまともに会話のキャッチボールしろ。」
「だから本当に心からお願い永琉。明後日の日曜日の夜を私に…いやノラ君に捧げて下さい。」
「だが断る。」
そんな馬鹿馬鹿しい話に乗ってられっか。首を振って即答した私に対し、眼をぴえん状態にするかと思われた結芽だったが意外にもぴえん顔を浮かべていない。その代わりと言わんばかりに分かり易い悪党の様な顔を湛えている。
悪知恵しか働かせていなさそうなその表情をお前は一体何処に隠し持って生きて来たんだよ。初めて見たぞ。
「……ゲーム用の課金カード五万円分プラス、私が永琉のチーム戦に協力する。」
うずらの卵のベーコン巻きの串焼きを取り豪快に全てを一口に収めた結芽が、串の先で私を指してふふんと鼻を鳴らした。どうでも良いがその食べ方なんなん。こいつ私の知らぬ間に海賊にでもなったんか?
一見すると、今の結芽の発言は誰もが下らない攻撃だと思うかもしれない。しかしながら、非常に残念ながら、実に悲しいのだが、私にとっては会心の一撃であった。
「……。」
「でも仕方ないかぁ。私の大切な親友の永琉がどうしても嫌だって言うんだから無理強いはできないもん。」
「……。」
「ノラ君を指名している数時間だけ一緒に居てくれれば良いだけなんだけどなぁ。別に性的な行為とかは全然しないで良いのになぁ。」
「……。」
「お話だってしなくても構わないのになぁ。永琉は大好きなゲームをホテルのベッドに寝そべりながら楽しんで時間になれば帰るだけなのになぁ。」
「……。」
「あーあ、とってもとってもとーっても悲しいけど、諦めるしかな……「ちょっと待って。」」
相手の言葉を遮ったのは勿論私である。私以外にいない。こんな場面で結芽に待ったをかけるのは世界中探しても私のみであろう。その理由は実に明瞭であった。