Melts in your mouth
頭が痛い。そのまま意識が遠のいて気絶できたりしないだろうか…できないよな。うん、現実がそこまで私に優しく寄り添ってくれない事は平野が後輩になった時点で覚ってたわ。
状況の把握ができないというよりしたくなくて、仕事なんかよりも余裕で優先順位の高いゲームをこの私がプレイ途中の画面でベッドに放った。そしてガンガンと痛む頭を両手でしっかりと抱えて髪を掻き乱した。
「ドッペルゲンガー?それとも双子とか?どっちにしろ最悪だけど本人よりはマシ…「やだなー永琉先輩。俺はちゃあんと永琉先輩が可愛がっている平野 翔ですよ?」」
本当にやだなーだよ。何でお前なんだよ。よりにもよって地球上の人口77.53億人の中で私が最も嫌いとする人間がどうしてここにいんのよ。
冗談抜きで口から泡を吹きそうだ。人生で吹いた事ないから分からないけど多分今なら吹けると思う。それ位に気分が悪い。胃の底がムカムカするし、悪寒が止まらない。
ベッドの外に両脚を投げる形で座ったまま思考を巡らせていると、ギシッと固いベッドが軋む音が鳴ってマットレスが深く沈んだ。その拍子に視線を宙に浮かせて原因を探れば、平野が僅か数十センチしか離れていない場所に座っていた。
何で平然とベッドに上がって来てんのこの男???ただでさえこっちは思考回路が爆発してるってのに、相手は美しい笑みを顔に咲かせニッコニコしている。
「はぁー、マジでどういう事?」
「日曜日の永琉先輩も超可愛いですね。」
「おい。」
「休日の永琉先輩ってレアだから、網膜に焼き付けないと…「ふざけないでちゃんと質問に答えて。」」
自ら投下したはずの声が思っていたよりも低くて驚いた。「気が動転している」なんていうレベルではない心と思考の乱れが起きているせいだった。
細長い睫毛をパチパチと瞬かせている相手は、睫毛で丁寧に丁寧に縁取られている色素の淡い瞳に形容し難い表情を浮かべている私の顔を映し出す。
「何がですか?」
「……。」
「俺に質問があるなら、もっと具体的にして下さい永琉先輩。」
「…っっ…あんたね…「ほらだって、折角の二人きりじゃないですかぁ。」」
“俺、永琉先輩からの質問なら、何だって答えますよ?”
無駄に艶と色を孕んだ声が、私の耳元で甘さだけを残して溶けた。