Melts in your mouth
そして貴様はいつの間に服を脱いだんだ!?!?ずっと睨み付けていたつもりだったのにどうして気付けば半裸になっている!?!?どんなマジック使ったんだよ。そして素肌まで肌理細かくてツルツルなの何なん。前世でどれだけ偉大な功績を残したわけよ。
現世では私に迷惑しか掛けてないから地獄行き決定だな。もしもこんな男が天国に行く様な間違いがあれば、閻魔大王に直談判してやる。例え私諸共地獄に堕ちる事になっても、平野だけは地獄に引き摺り下ろしてやる。
私達の仕事はデスクワークでそこまで肉体労働ではないはずなのに、平野の身体には無駄な脂肪と思われる存在が一切見当たらない。会社にいる男連中は歳を重ねれば重ねる程に横幅の成長期がお盛んになるのに、平野の身体はだらしないどころか腹が薄っすらシックスパックに割れている。
そりゃあまぁ、こういう副業をしているなら身体に気を遣うのは当然なのかもしれないが、こいつに関してだけは何の努力もしないでこのボディーを手に入れいる気がしてならない。
「平野。」
「ここではノラ君なんですけど、永琉先輩は特別に平野って呼んでも良いですよ。」
「じゃあノラ。」
「え、呼び捨て?」
「いい加減にしなさいよ。これ以上ふざける様だったら本気で怒るから。」
こいつに特別なんて言葉を使われると背筋が寒くなるし鳥肌が立って仕方がない。そもそも常に上から目線なのが腹立たしいし、どうもこいつの掌の上で自分が踊らされている様な気がして酷く不愉快だ。
さっさとこいつの意表を突いて掌から華麗に降り立ちたいのだが、この男の掌のど真ん中から一歩も動けていない自分がいる。
放った忠告は、私の中で最終通達のつもりだった。それなのに、平野はへらりとお得意の甘ったるい艶笑を添えるだけ。「怒って良いですよ。永琉先輩になら、怒られるのも悪くないので」そんな余裕たっぷりな返答に、顔が強張った。
「先輩、何か勘違いしてませんか?」
「何を?」
「俺、ふざけてるつもりなんて微塵もないですよ。」
仕事でも見せた事のない平野の真剣な表情に気圧されて、ゴクリと息を呑んだ。な…何なの。何なの何なの何なの何なの。どうしてあんたは一々私の地雷を踏んでいくのよ。
ふざけてしかいない癖に、舐め腐ってばっかりの癖に、急にこうやって端整な顔に説得力のある表情を浮かべて相手を黙らせる。
だから私は、平野が嫌いなんだ。大嫌いだ。