Melts in your mouth
相手のクソイケメンな顔が近づいて、そのまま自分の首に埋められそうだった。自分の身体の危機が迫っているというのに、私にできたのはギュッと強く目を瞑る事くらいだけだった。実に情けない。
しかし、待てど暮らせど平野の高い体温が自分の肌に伝わない。ただただ平野の色気しか感じない香りが鼻を通り抜けるばかりだ。
だからといって、この瞼を持ち上げる勇気もない。とりあえず重量挙げかな?と思う位に瞼が重い。静寂という名の沈黙が、嫌な雰囲気を煽りに煽っていた。そんな中だった。
カシャカシャカシャカシャカシャ。目を伏せても尚、はっきりと分かる眩しさに襲われたと同時に、シャッター音が連続で鳴り響いて沈黙を掻き消した。
…。
……。
………。
…………。
カシャカシャカシャカシャカシャ?おい?ちょっと待て?今以上の身の危険を感じる事はないと考えていたがどうやら私の思考が甘かったらしい。言葉にならないまでの危機感に突き動かされるがままどうにか瞼を持ち上げる。
シャンデリアの灯りに早速目潰しを喰らいながらも状況把握に勤しめば、はっきりとしてきた視界が捕らえたのは私にミラーレス一眼レフカメラを向けている平野の姿だった。
「うわ最悪かよ。まさかでしょ…。」
何の説明も受けていないが、忌まわしき後輩の思惑を理解してしまった私の口を突いて出たのは怠さマックスの声。
こいつに押し倒された時よりも、服を脱がされた時よりも、額に口付けされた時よりも、冷や汗が噴き出して顎を伝いポタリと胸に落ちて雫を作る。カメラ越しにある平野の口許が美しい三日月を作って「そのまさかですねぇ」と漏らした。新手の全裸監督かよ。
「永琉先輩がラブホのベッドで乱れている写真ゲット~♬」
「……。」
「ねぇ、永琉先輩。こんな厭らしい写真、会社でばら撒かれたくなんかないですよねぇ?」
「……。」
カメラを下ろしてピッピッと手慣れた様子で機械を操作をした相手が、液晶画面に映し出した需要の無い私の淫らなグラビアショットを披露した。そこには、どう頑張って見ても情事を致している最中かの様な私の姿がきっかりと収められていて、漫画でよくあるあの描写さながら、口から魂が抜けそうになった。
誰だよこんな性格捻じ曲がってる人間を採用したのは。