Melts in your mouth
わざわざそうまでして私と昼を共にしたい気持ちが、自分で言うのも何だがさっぱり理解できん。自分をあからさまに嫌っている人間と、しかも直属の先輩とお昼を食べたいっていう発想に至るか?…否、至らないだろ。


胸中で反語を用いながら悶々と煮え切らない気持ちを膨らませた私の表情は知らず知らずのうちに険しくなっていたのだろう。「先輩、難しい顔して悩みでもあるんですか?俺が聞きますよ」正面からそんな言葉を投じた平野が、私の顔を覗き込む様に首を捻った。


そのお陰でバチッと互いの視線がぶつかって、必然的に滅多にお目に掛かれないレベルの麗しい顔が私の視界を占領する。はぁー、何でこんなにイケメンなん?弱小sucré編集部より最強キラキラジャニーズ事務所の方が性格的にも向いてただろ?勝手に履歴書送ってくれる様なお母さんとかお姉さんとか親戚の叔母ちゃんとかいなかったの?



「先輩?」



海賊が肉を食べる時に匹敵する豪快さでフランスパンを喰らいながら、まじまじとケチの付け処がまるでない相手の顔を見つめた。


最初は…てか今もだけど、こいつの言動に対する疑念は山の如しだ。それなのに、どれだけ疑っても平野は一向に私の想像している様な裏の顔を見せない。チラつかせすらもしない。

今だって何がそんなに愉しいのか、頬を緩めたままお行儀よくバインミーを食べている。「コーヒー買って来てよ」とか全然言ってこない。


平野とこんな感じでただ一緒にお昼を過ごすのも今日で一週間が経った。何の嫌がらせもまだ受けていない。本当に何もない。どうせ毎日一緒にお昼を食べるという条件は建前で、どす黒い陰謀が裏でケケケッと嗤っているだろうという予想さえも外れたらしい。


しかもやけに見映えも味も上質なお弁当を、毎日私の分まで作って持って来るという始末だ。一体何処に平野にとって得する事があるのだろうか。毒でも盛られていた方がまだ納得できる。


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