Melts in your mouth
朝起きて眠たい目を擦る。溜まっているタスク…メッセージに返信をしてからベッドを抜け出す。枕元には寝落ちする寸前までしていたゲーム機があり、それを充電する任務だけは忘れてはならない。
私の日常を見ている人間ならば大方お察ししているとは思うが、私はちゃんとした人間ではない。まぁ、何を以てちゃんとしていると認定できるかと問われれば明確に答えられないが、兎に角ちゃんとはしていない。
そんな私がベッドメイキングをするのは、母親が割とマナーや礼儀に煩かった影響だと思う。被っていた掛け布団を綺麗に伸ばして、シーツの皺を払った後は、時間との勝負だ。
洗顔、歯磨き、着替え、コップ一杯の水を飲み、年々短くなっている化粧を十五分で済ませ、その間にコーヒーも飲む。最後に髪を梳いてヘアアイロンで寝癖を直せば準備完了。仕事用の鞄を肩に掛けて、独り暮らしをしている一室を出発する。
行き先は勿論、勤務先の出版社だ。因みに私は真面目な人間でもないので、毎日ちゃんと「仕事に行きたくないな」と独り言を零しているし、会社爆発しないかなと最低な願望を毎日抱いている。
「げ、雨降ってるとかダルッ。」
マンションのエントランスを抜けて外に出た途端、頬を叩いた冷たい雫に怪訝な表情を浮かべながら空を仰げば、太陽も青空も覆い隠す厚い雲が広がっていた。傘は家の玄関にある。しかもあの傘を使った回数は片指で足りる程度だ。
社会人になって六年目なのに、未だに天気予報をチェックして家を出る習慣が身に付かない。ほらね、自慢じゃないけど私ってちゃんとしてないでしょう?
引き返して傘を取りに戻るなんていう時間の余裕はないので、どうか本降りになりませんようにと全力祈願してから駅まで急ぐ。傘を広げて歩いているOLやサラリーマンを何人か追い越して改札を潜り、すっかり親しみを覚える様になった駅のホームで電車を待つ。
一番激しい通勤ラッシュには被っていないからか、ホームにいる社会人は疎らだ。そして殆どが毎日見る顔触れだ。