Melts in your mouth
いつの間にか成人を迎えて、いつの間にか社会人になって、いつの間にか社会人歴を積んでいた。成人を迎えた時なんて社会の事なんざ右も左も分からないひよっこなのにこれが大人だと?納税できる気がしねぇぞ?労働できる自信なんてねぇぞ?って思っていたのに、案外すんなりと学生から社会人に移行できた。


社会人になりたての頃も毎日毎日スーツ着ての新人研修にメンタルが死にかけて、浮腫み散らかした足を引き摺りながらゾンビの様に帰宅するのが常だったから、こんな毎日続けてたら死ぬ。明日こそ辞めてやる。そんなマイナスな事ばっかり考えてたけど、今では意外と社会人生活を送れている。


水道光熱費及び家賃も滞納した事はないし、ゴミ出しもできているし、僅かながら貯金もしている。殆どの社会人からするとそんなの当たり前だと鼻で笑われそうだが、私からすると一応自立できている今の自分はかなり奇跡に近い。



「天気悪くなーい?折角巻いた髪が崩れるんだけど。」

「それな。でも仕方ないじゃん、梅雨入りしたってママが言ってた。」

「そっか、もう六月だもんねー。」



私の後ろを通り過ぎて行く制服を纏った女子高生の会話の盗み聞きを通して、天気が悪い原因を知った私はやはりちゃんとした人間ではない。手に持っていたスマホへ視線を落とせば、ホーム画面に表示されている時刻の下に「6月1日月曜日」と今日の日付けがしっかりと表示されていた。


見ず知らずの女子高生の彼女も言っていたがもう六月なのか…sucré編集部に新入社員三名が加入してから一ヶ月が経とうとしているのか…という事は、私と平野が一緒に昼休みを過ごす様になってからもあと数日で一ヶ月になるのか!?!?



信じられない現実に目を見開いた刹那、手の中のスマホが振動した。結芽からの着信だった。私は素直に顔を顰めた。

何故ならこいつは、昨日のゲームの約束をちょんぼした犯人だからである。何度も電話しても繋がらなかった癖に、何で月曜日の朝っぱらから電話を寄越す余裕があるんだよ。


どうせ下らん内容だろうなとは思いつつもマブダチの連絡を無下にはできず、仕方なく着信に応じてスマホを耳にあてた瞬間だった。



「もしも…「永琉ぅぅううううう!!!!!ノラ君が…っ…ノラ君が辞めちゃったぁあああああ!!!!」」」



スマホ越しに鼓膜を突き刺したのは、結芽の涙に濡れた声だった。


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