Melts in your mouth



いつもこうだ。こっちが嫌悪感100%を示していても、何のダメージも喰らっていないといった様子で、この男は整い過ぎている顔の表情を一切乱さない。


常に余裕風を吹かせていて、フルボッコにしてやりたい位生意気野郎なのにやたらと上司に好かれている。正確には、私以外の人間からは漏れなく好感と支持を集めている。



「そういえば永琉先輩、昨日も俺からのメッセージ無視しましたね?」

「無視してるんじゃなくてあんたを友達に追加してないだけだから。」

「えー、超傷付くわ。…どうしよう、もう俺今日仕事できないかも。」

「あっそ、それなら良かった。平野が仕事できない間に私は自分の業績上げられるわー。」

「うっわ、ひどーい。」



あからさまな棒読み台詞。これっぽっちも心がこもってないし、そもそもこいつは傷付いてすらいないだろう。ていうか傷付く以前として心という概念すらなさそうだな。


その証拠に、しっかりとセットされたグレー系のアッシュに染められた髪をクシャリと掻き乱しながら、私のデスクの隣にある己のデスクに着席して欠伸をかいている。これが心を傷つけられたばかりの人間が見せる態度かよ。

全然関係ないけどよくそんなチャラいヘアカラー会社からオッケー貰えたな。どいつもこいつもこの男の味方か?あん?


普段は遅刻ギリギリの滑り込み出社の癖に、よりにもよってどうして私が早く出社するという一年に一回あるかないかの日に限って、平野まで早く登場してくれてるわけよ。



はぁーこんな事なら十五分前に家を出るんじゃなかった。ゲームのイベント走っておくんだった。早起きは三文の得って言葉を遺した人は誰ですか、得するどころか三文以上損してるんですけど。


< 7 / 170 >

この作品をシェア

pagetop