Melts in your mouth
親指を立てて「流石sucréの大黒柱!恰好良いです菅田先輩」と瞳を煌めかせている中島ちゃんが、日に日に親分を立てる子分みたいになっている気がする。
「そんな大袈裟だよ」って謙遜したいところだが、平野から逃れる為に必死こいた結果sucréの廃刊を救うという謎の功績を残した自覚があるから言葉を呑み込んだ。後、髙橋編集長が泣きついている姿も容易く想像できた。
そして私は本来の「平野との先輩後輩という関係を断ち切る」という目標は未だに達成できていない。
私の横に並んで歩く中島ちゃんは文句なしに良い後輩なのだが、たった一つだけ気掛かりな事がある。
「中島ちゃん、今日本当にいつも以上にルンルンしてるね。」
「ふふっ、どうしてだと思いますか?」
頭の動きに合わせて右へ左へ揺れているのは、ラベンダーピンクに染められた彼女の髪。顔が小さいからショートボブが似合い過ぎている程に似合っている。
ラメの入った桃色のリップが乗せられた唇が妖しく弧を描いて、私が中島ちゃんのその笑みから不穏な予感を察知した刹那、自分のデスクに到着した。椅子を引こうと背凭れに手を掛けた自分の視線がデスクに置かれた見慣れない紙袋を捕らえたせいで、私の手の動きが止まった。
「これ…。」
「平野先輩からです!!!」
正体不明の紙袋にこっちが怪訝な表情を浮かべるよりも先に、横から弾んだ声であっさりと紙袋を置いた犯人が明かされる。嗚呼、やっぱりか。そう思って苦笑した。
中島ちゃんという人物の唯一の気掛かりな点。それは……。
「平野先輩、担当している漫画家先生の取材に同行する為今日はオフィス出勤なしだったんですけど、菅田先輩のお弁当を届ける為についさっき顔を出してたんです!菅田先輩、平野先輩に愛されてて羨ましいです~!お二人は結婚のご予定はまだないんですか?」
「いや中島ちゃん、私達そもそも付き合ってすらないんだわ。」