Melts in your mouth
しかもご覧の通り、かなりの過激派っぷりである。
「大丈夫ですよ菅田先輩。先輩方の交際はsucré編集部の秘密ですもんね。それは守ります。」
「……。」
使命感に満ち満ちた真剣な面持ちで敬礼している所悪いんだけど、誤解が誤解を生んでとんでもねぇ事になってんなおい。
もう何から訂正すれば良いのか分からなくて額に手を当てながら深く溜め息を吐く。余りにも頭の痛い状況にそろそろ発熱するかもしれん。
「菅田先輩と平野先輩の美男美女カップルをこんな近くで拝めるなんて、sucré編集部配属になった甲斐がありました。」
「中島ちゃんお願いだから至急、その悍ましい洗脳から目を覚ましてくれる?」
どうしてこうなったんだ。私が教育係になるまでに平野が新卒三人に業務の流れを教えていた時期があったけど、もしかしなくてもその時にあいつが幼気な三人に変な入れ知恵したんじゃないの?
役に立つべき場面では全く顔を見せない平野の胡散臭いカリスマ性が、髙橋編集長をはじめとした上司や先輩だけでなく、新卒三人をもあっという間に冒してしまった。中島ちゃんが極めて重症だが、他の新卒二人も漏れなく平野ウイルスに感染しているのが更に由々しき問題だ。
sucré創刊以来の未曾有の危機に瀕しているのに、危機感を募らせているのは私のみである。平野というストレスが次から次へと新しいストレスを招いてくれたお陰で、こちとら胃潰瘍一歩手前なんだが!?!?
「平野先輩ってビジュアルも完璧なのに、人柄もパーフェクトですよね。」
「ビジュアルだけの間違いでは?」
「だって恋人のお弁当を毎日手作りして、しかもそれを自分は出社しないでも良い日に届けるって…もう…もう…どんなヒーローよりもヒーローじゃないですか。」
私も平野先輩みたいな恋人が欲しいです。そう続けた彼女は両頬に自らの手をあてがってとろりと目を細めた。その仕草は乙女そのものだった。
だけど何度でも私は言うぞ、平野は私の恋人じゃあない。良く言ってクソ生意気な後輩!悪く言って垢の他人!以上!